8.僕。君。
次の日、いつもと変わらない朝をカフェテリアで迎えるアラタの元へ一人の女性が話しかけてくる。
「すみません、アラタさんですか?」
「?」
見覚えのない女性が自分の名を知っていることに驚きつつ女性の名前を尋ねる。
「あなたは?」
「シンです」
――変わった名だな――
「何か用で?」
「実はお聞きしたいことが…」
話が長くなりそうだと予感し、シンが話を始める前にコーヒーのお替りへと行く。
「なんか前にも似たようなこと言った気が…」
――もうデジャブはこりごりなんだけど――
なんてことを思っているともう一人、今度は知っている女性がアラタに声をかける。
「あんたいつもここね」
「あ、いおりん」
「招集かかってるでしょ?何してるの?」
スマートウォッチを開くと5分前に村上君から「会議室集合」とメッセージが来ていたが、通知をオフにしていたので気づかなかったみたいだ。
「夜に鳴ると嫌でつい」
「ついって、はぁもういいから行くよ」
「ちょっと待って、俺に話がある人がいてそれ終わってからでもいい?」
「…」
その場でいろいろと考えた末に「…分かった」と不服そうに言う伊織に「さんきゅ」っとだけ言い残し、シンが待っている席に戻る。
「それじゃあ、お話を聞きましょうか」
「って、なんでお前も付いてくるんだよ!」
「誰もあそこで突っ立って待ってるなんて言ってないじゃない」
「いや、会議室に戻るなりなんなりしろよ!」
「あなたがバックレる可能性だってあるでしょ?」
「ねぇよ!」
言い争う二人に圧倒されて言葉を発せないシンをよそに言い争い続けること約15分後…
「はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ」
「のどか湧いて仕方がねーな」
15分間喋りっぱだった二人が手に持っていた並々に入っているドリンクを一気に飲み干し、もう一度ドリンクを入れに行こうと席を立った時にようやくシンの存在を思い出す。
「あ、えっとその、もう一杯」
「早くしてください…」
若干の潤いを見せる彼女の目を見て――やばい――と二人同じタイミングで思い、急いでドリンクを用意して席に戻る。
「お、お、お、お話を聞きましょう」
「はい…」
そしてようやく本題へ。
「単刀直入に聞くんですけど、私の事…」
――私の事がなんだ?――
少し間を開けたのちシンが喋りだす。
「覚えてないですか?」
「誰ですか?」
「はあああああ」
「あんたそれは無いは」
「俺今悪いことしたんか!!?」
アラタの悪意無き棘でシンの心が打ちひしがれ、その場に倒れる。
「だ、ダイジョブですかーーーー!?」
「おい!お%@^!*@
――意識が――――――――――
「――っ!」
次にシンが目を覚ますと会議室(医務室)のベットに横たわっていた。
「あれ?私」
意識を取り戻して早々、誰かが言い争っている声がするので仕切りのカーテンの隙間からゆっくり除くと少女と白衣を着た人が言い争っているのが分かった。
「なんでこうも面倒ごとをここに持ってくるかね!?」
「仕方ないでしょ?皆何故か倒れちゃうんだから」
「だからと言ってなんでここでそんな物騒な事件にうちが巻き込まれなきゃいけないんだ!そもそもここは人を治す場所であったあれはもう人だったもので…」
「ひっどい!あんたみたいな老害も人だったものでしょ?同族嫌悪でもしてるのかしら!」
「ガキの姿をしてるからって調子に乗りやがって…!」
「は?よく聞こえなかったんだけどー?もう一度行ってもらえますか?ろ・う・じ・ん・ちゃん」
「ナノてめーーーーーーーーー!」
「や、やめろ!離せ!馬鹿!肉体はちょっと頭のいい女の子だぞ?手を出すのか?出すんだな!嘘です冗談です。やめてください。誰か!襲われる!!!誰かーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
何かただ事ではないことが医務室で行われている現実に足を震わせながらもカーテンから身を出し少女を助けに行く。
「ややややや、やめ、やめめめてくだ、さい」
「おや、起きたのかい」
「あれ?」
そこで未成年女児を襲うけだものがいると思いきや、ただの注射にビビる可愛らしくとてもほのぼのとした空間だけが広がっていた。
「どれ、この数字は何本に見える?」
「さ、三本です…」
「うむ、これと言って脳への後遺症もなさそうだな、もう少し寝てから帰るといい」
「おじさん、ナノがまた何かしてたの?」
「咲ちゃん今日は起きるのが早いね」
「無理やり起こされたのよ」
いきなり知らない天井があったり、さっきまで喧嘩していた二人が突然他人事のように仲良く話し出したりと訳が分からなくなってきたところで集団が部屋に押し寄せてくる。
「風太先輩元気っすかーー?」
「あれ?起きてんじゃん」
「はぁ、佐藤先生起きたら起きたって連絡入れてくださいって何度も言ってるじゃないですか」
「すまんすまん」
「おい、いおりんこれ運ぶの手伝えって」
「あんたがメッセージを見ないのが悪いんでしょ?」
――なんなの、この人たちは――
さらに増えた情報を処理しようとシンの脳はフル回転するもまだ起きて間もない脳はショートしてしまった。
「はう」
「え?また倒れたぞ?」
「なんなんだこ%&@&!―――――――――――――――
【お休み、〇〇〇ちゃん】
―――――――きろ?」
――誰?――
――――ン?おい、おいってば」
――お母さん?――
「起きろ!」
「はい!」
目を開けて辺りを見渡すとさっきまでの大人数の姿は無く、医務室には横で座っているアラタしかいなかった。
「おそよう」
「お、おそようございます…」
「で、?」
「で?な、なんですか?」
「俺に聞きたい話って何?」
「あ、そうです助けてほしいことがあるんです」
「?聞きたいことじゃなくて助けてほしい事なのか?」
「はい、聞きたいのは私を覚えてるかどうかでした」
「なるほどな、で?俺が何したらいいんだ?」
「助けて下さい!私ここに来る前の記憶が無くて」
「は?」
「アラタさんも同じ処遇だって店長さんから聞いて…」
「いや、いやいやいや。は?」
「どうかしましたか?」
その場に勢いよく立ち、指をさして大声で叫ぶ。
「容疑者みーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっけ!」
「え?」
「いおりーーーん!」
そのまま医務室を飛び出しシンを独りぼっちにされた状況にまたしても脳をフル回転させたがエラーを起こしてしまう。
「えええええええええええええええええええええええええ?」
シンがエラーを起こしてるうちに人や道具がわらわらと医務室に運ばれてくる。
「えええええええええええええええええええええええええ」
「またここか」
「えええええええええええええええええええええええええ」
「議題はこうこうこうで」
「えええええええええええええええええええええええええ」
「おい、起きろ、おい?」
「えええええええええええええええええええええええええ」
「起きろ!」
「ええええええええ、はい?あれ私はどこでここは誰?」
「お前はシンでここは医務室だったとこ」
「あぁ、すぐ来てくれ、場所は医務室だ」




