5.奇跡だと君は言うけれど。
「目撃者がいたのか!?」
一階物置小屋に戻り、健介の言っていた手がかりを元にもう一度尋問する相手を選別していく。
――目撃者がたとえいたとして、なぜ俺たちにそれを伝えないんだ?――
「健君!女性の名簿持ってきて!」
「うっす」
――たんに俺たちの存在を知らないだけか?――
アラタの脳に嫌な可能性と共に、記憶がよみがえる。
――それとも…――
【イレギュラーが欲しいのさ、スパイスが、異常が!人ってのはそこに興奮する生き物さ】
「くそっ、どいつもこいつも人間は…」
「伊織ちゃんと、アラタ君は聞き込みの再開お願いするね」
「わかった」
「うん」
残りの容疑者は14名、ファイルを開き手分けして聞き込みを再開していく。
ピポン
『三階です』
「私ココ担当するから、上は任せたよ」
「うぃー」
――またさっきのとこか――
先ほどの騒ぎが無くなっていることを祈りつつ、四階のボタンを押す。
ピポン
『四階です』
「おぉ」
先ほどできていた人だかりは見事なまでに解散しており、床を掃除する掃除ロボとドリンクを飲む何人かの渡航者だけになっていた。
――まぁ下にいっぱい人いたし当然ちゃ当然か――
「えーっと、誰かいるかなーーーっと」
カフェテリアでドリンクを飲みながら人と話している人たちの顔を遠目から見るが。
「誰もおらん…」
――1000分の15だもんな、いや14かそりゃおらんぜ――
「しゃーない、乗り込みに行きますか」
名簿に書いてある部屋番号を見ながらそこに向かう。
「4の132、132、、あった」
部屋番号4-132に暮らす田中たける35歳男
ドアをノックして中にいるか確かめる。
コンコン
「すみませーん、お聞きしたいことがあるんですが」
「…」
コンコン
「すみませーん、お聞きしたいことがあるのですが」
「…」
ガチャガチャコンコンガチャガチャコンコンガチャコ、ドンドンガチャガチャバンバンガチャバンドンドン
ガチャン!
「うるさいよ!」
「あ、どうも」
「あ、どうも。じゃないよ!何時だと思ってるんだ!」
「一時ですけど」
「え!?もう一時!!!?」
――なんだコイツ――
部屋から現れた田中たけるを――変な人だな――と、街中に出たゴキブリを見る目でたけるを一歩引いて見る。
「君も十分変だけど、何か用?」
「あそうだった、いくつか聞きたいことがあるんですがよいですか?」
「敬語を使ったことが無いんだね、無理しなくていいよ…」
「あそう?じゃあおっさんの名前と年齢と部屋番教えて?」
――何この子、もう嫌だ!――
泣きながら天を仰ぐたけるをまたしても夜中大声で歌いながら帰るサラリーマンを見る目で三歩引いてたけるを見る。
「それじゃただのカフェオレじゃない?」
「コーヒーだ」
【立ち話はあれだから、座ってお話ししない】とカフェテリアを指さしながら提案するたけるに【それもそうだな】と一緒にカフェテリアに来た二人。
ズズ…
「ふぅー」
「お茶みたいに飲むね」
右手でコップを支え、左手で底を持ち上げながらコーヒーを啜るアラタを笑みを浮かべながら言うたけるに――馬鹿にしてんのか?――と睨みながらコーヒーを啜る。
「んで、本題に入るんだがまず名前と年齢それから部屋番を教えろ」
村上君に渡された{初心者でも簡単!尋問項目一覧}と書かれた紙を見ながらたけるに尋問していく。
「さっき部屋の前まで来てたよね…」
「こういうのは本人から聞いた方がいいらしいんだ」
――村上が言ってた――
「なるほどね」
――話が分かる奴で助かった――
コホン
「僕は田中たける今はギリ49歳、部屋の番号は4ー132」
「なるほどなるほど」
嘘を言ってないか名簿を見ながら質疑を繰り返す。
――そうか、ここには乗船前の記録が乗ってるのか――
「普段何時に寝るの?」
「ここに来てからあまり時計を見なくなっちゃったからな、たしか十時とかだっけ?」
――消灯が九時半だから、三十分後とかか――
「あんま早く寝付けないのか?」
「そうだね」
「なるほど、あそうだ起きる時間は?」
「いつもは、何時だろ?ニュースが終わった後とかかな」
――ニュースは十時とかだから結構遅いのか――
「俺はニュース好きだけど、あんた興味ないのか?」
「まぁね、地球のことを思い出すとなんだか恋しくなるから」
――そういうもんなのかな――
「えーッと次は」
質問しようとすると突然スマートウォッチが振動し、下を向き画面を見ると村上君から「一階集合」と招集が掛ったのでいくつかの質問を飛ばし、重要なことを聞こうとたけるの目をゆっくりと見ながら次の質問をする。
「真人の被害にあってるんだね」
「――っ!」
――あ、まずったな――
彼の目が一気に開き、その目の奥には復讐心で燃え滾る黒い炎が燃え盛っていた。
「わかった、今のは無しだ」
「いや、大丈夫だよ聞きたいのはそれじゃないだろう?」
にこりと作り笑いを取りながら目をつむっているたけるだが、頬がピクッと痙攣しているのが丸見えだった。
「…真人を恨んでいるか?」
「いや?恨んでないよ。」
「分かった、最後の質問だ。最近不審な女を見かけなかったか?」
「見てないよ。」
「分かった、これで尋問は以上だ」
席を立ち、たけるの肩に手を置く。
「ごめん、俺が悪かった」
そう言い捨て、三階にいる伊織へと合流するためにエレベーターへと向かった。
――まぁ彼は違うな――
ピポン
『三階です』
エレベーターが開くと、ちょうど伊織がエレベーターを待っているところだった。
「「あ」」
「どうだった?」
「まず、見つからん」
「だろうな」
「そっちは?」
「一人と話したけど、多分違う」
「誰?」
「田中たける、はいこれメモ」
ファイルの間から紙切れを伊織に渡す。
「部屋が近くて、真人に恨みもある男性…なんで違うと思ったの?」
「その人消灯後少し起きてるし、朝も早く起きないんだ」
「?」
「お前、運動したことある?」
「そりゃ何回かは」
「運動した後疲れるだろ?」
「もちろん」
「疲れがたまると眠くなるだろ?」
「ぐっすりよ」
「眠った後は?」
「気持ちよく朝早く起きるわ」
「だろ?」
「え?それだけ?」
「もち」
――こいつ尋問向いてなさすぎでしょ――
と隣に居る男に呆れているところでエレベーターが止まった。
ピポン
『一階です』
「お、村上さん来ましたよ!」
物置部屋から作戦会議室(医務室)に道具を運ぶ健と目が合う二人。
「来たか」
「なんで医務室に運んでるんですか?」
「それはだな」
二人が聞き込みに行ってすぐの事。
村上君と風太が資料室に向かっている最中―――
【じゃあ私たちも名簿を探すか】
【そうだな】
【風太さん!半分持ってください】
【しょうがねぇな】
床に山積みになった名簿を見ながら腕をまくり、その場にかがんで後輩にいい顔をしようと半分よりも多く持って立つ。
その刹那――
バキっ―――――――
名簿のファイル一冊にはびっしりと紙が挟まれており、その一枚一枚に写真が貼られている。
何てことはないただのファイルだ、風太が持とうとした重さもたかだか10キロ程度。
だが、人は成長するだけではなく、劣化することだってあるのだ。
風太が倒れるのと同時に山積みにされた名簿も地面に崩れていき、その衝撃で一枚の渡航者の情報が書かれたページが開かれた。
部屋番号1-042に暮らす村上風太29歳男
年齢には抗えなかった。
【はーっ、はーっ】
【風太?しっかり?】
【風太さん!】
【はーっ、はーっ】
【佐藤先生、佐藤せんせーーーーーーーーーーーーーーーい!】
「で、動けないから病室で」
「…」
「なんだよアラタ、言いたいことがあるなら言えよ」
痛みで少し不機嫌になっている風太にとどめを刺す。
「じじぃ」
「黙れ」
ホワイトボードを物置部屋から持ってきて、それを風太のベッドの前に置き、会議が始まる。
「村上さん、準備できました」
「あれ、咲ちゃんと礼二君は?」
「咲なら寝てます、礼二は丘野兄弟のとこでしょう」
「そっか」
――自由過ぎねぇか?――
「しかたない、始めちゃおう。今回の議題は{謎の女性を!正体いかに!!?}だ」
――ダサい――
――ダサすぎ――
――ダサいっす――
――ダサいわね――
「この船内には役500名の女性がいます」
「500名全員に聞くのは骨が折れるな」
「そこで、何人か選別するための会議です」
――そうだったのか――
――何するかわからない議題は議題なのか?――
――聞き込みメインじゃないのね――
――ダサいっす――
「まず、初めに言うことは彼女が嘘をついているということです」
「まぁ、後藤ともみがダンベルを持てる極細マッチョじゃない限りはな」
「それと複数犯でもない限り…か」
「そうか、複数犯てこともあるのね」
「それは無いと思うけど」
「なにかあるっすか?」
「だって人殺しが今になって出たんだぜ?それに便乗するにしたって目撃者がいるトレーニングルームでやる意味は無いだろ、あとエレベーターも見つかるリスクがあまりにも高い」
「たしかに」
「そうっすか?」
「なら線は薄いってことで一人の犯人だと仮定してこれからは調査します、異論はないですか?」
「あぁ」
「もんだいない」
「…」
「私も大丈夫だけど」
「健君は何か引っかかる?」
「いえ、そういうわけではなく。ただ一人の仕業っていう根拠が俺にはわからなくて」
「そうね…なら健君は複数犯だと仮定しながらこれからは考えていくように」
「うっす」
「それじゃ本題だけど」
「嘘をつきそうな女をリストアップしていけばいいんだな」
「そう」
「でも嘘をつきそうな女性っすかー」
「難しいわね」
「んーーーー」
――嘘をつきそう――
「なぜ嘘をつくのか、か」
「アラタ?」
下を向き、人差し指の第一関節をかみながら考え始める。
――なぜ嘘をつく
――嘘=現場をかき乱す
――知られたくないことがある?
――それとも自分だと知られないため?
――やはり面白半分
――なぜ嘘をつく必要がある?
――愉快犯?
――それともあいつの妄想?
――いや、そこじゃない――
「なぜ嘘をついたのか、だ」
突然アラタが席を立ち、ボードにリストアップする条件を書いていく。
条件
・何も持ってない人
「何も持っていない人?」
「あぁ、正確には失うのを恐れていない人だ」
「というと?」
「この事件はどこにも逃げ場の無い超密室殺人だろ?それに火星まで付くのに15年もかかる」
「それがどうしたんだ?」
「犯人が見つからずに終わるわけがないんだ」
「そりゃな」
「もっというと、女が嘘をついた後に健介が後ろを振り返っていたら顔を見られていた。そこまでのリスクを背負いながら犯罪の片棒を担ぐ意味はあるのか?そんなことしたら木を燃やそうとしたやつ見たく、数十年檻の中になるのに」
「そうか、だから失うモノが無い人ってことか」
「まぁ本当に面白くしようとした人かもしれないけど」
「いや、これで探そう。それに間違ってても片っ端から尋問すればいいだけだ」
「時間は有り余ってるからな」
「そうと決まれば」
さっそく名簿を開き、
・パートナーがいない人
・上司ではない人
・若くない人
・美容に熱心ではない人
etc...
色んな人を探すが―――
「いない!」
「こっちもいない」
「こっちもだめっす」
――地位、名声が無い人はいれども、知人友人がいない人がいない――
「やっぱ片っ端から聞くしかないのかー」
「覚悟決めるしかないわね」
「なにか、なにかないか?」
「そういえばアロさんが乗船するためには相方が必要って言ってたし…」
――相方が必要――
【必ず同行者がいるはずですよ!今から聞き込みしに行きましょう!!!】
【何人に聞く気なんだよ…】
【全員!】
「そうか、一人いたぞ」
「誰だ?」
この船内{ノア}に乗船するには必ず同行者、二人以上が絶対条件になっている。
つまりアラタにも同行者が少なくとも一名いたことになる。
「つまり、その孤立してる一人が」
「可能性はある」
「よし!では今からその女性へと聞き込みに行く!」
「アラタ!その女の名前は?」
「その、女の名は」
「もったいぶらずに、ささ」
「…せん」
「?せん何とかさんだ?」
「…ません」
「何とかませんさんなの?」
その場に土下座し、とても自然な敬語を大きな声で皆に使う。
「分かりません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
・
・・
・・・
「は?」
「てことは?」
結局片っ端から聞き込みへ!
タイムリミット14年4ヶ月25日
容疑者の数残り991人




