3.時計の歯車が君ならば、その歯車の部品に僕はなる。後編
「はぁ」
「どうしてため息をつくんだい?」
「いや、この人なんですか?」
アラタが指さす先には担架に運ばれている鈴森咲がいた。
「どうしてこんな…」
少し時をさかのぼり医務室の中で…
「今から!?」
「もちろん」
――俺はさっき起きたばかりだぞ?――
「そういえばこの船内、夜の出歩きは禁止なんじゃないのか?」
宇宙船{ノア}での夜は基本すべての部屋の鍵が自動でロックがかかり外に出れないようになっている。
そしてもし仮に外に出れたとしても、監視カメラが作動しているので見つかった場合、彼ら{特別護衛団}が出向き、自室に強制的に戻される。
ちなみに、十年前までは監視カメラは24時間365日稼働していたのだが、この閉鎖空間に苛立ちを抱えた渡航者数百名が【監視されるなんて、我々にプライベートは無いのか!】や【我々はモルモットではない!】だの、小規模のデモが数か月起きたことにより朝は稼働しないことになったが、その小規模デモが起きて監視カメラは朝は稼働しないと言った次の日に密かに数台稼働したところ、観察力の良い渡航者にばれ危うくユグドラシルを燃やされかけた。
その事件が起きてから今日まで、朝に監視カメラが稼動することはなかった。
「従業員は出歩けるのよ」
そう、村上君が言うと腕についたスマートウォッチを光らせ、その中にある{従業員証}をアラタに見せた。
「あ、あの窪みがそうだったんだ」
船内各所にある謎の窪みがこのためだったんだとアラタが気づいた。
「それじゃ行こうか」
「咲は置いていくのか?」
そう礼二が質問すると村上君は少し考えたのち「ま、連れて行って損はないか」と言って担架を風太と健に持たせ、そこに咲を乗っけてそのままエレベーターに乗り二階に到着して―――
「今だ」
「何してんの?新人早くいくよ」
「俺は胡散臭い連中の一味になった覚えは無いんだが」
伊織に急かされながらも彼らの後ろに付いて行く。
「ここが第一事件現場だ」
「ここって」
黄色のテープで一時封鎖されている{トレーニングルーム}の前で一行は止まった。
「ここでは須藤涼介と鈴木尚人が遺体で発見された」
「遺体は?」
「まだそのままだ、病原体が渡航者に移ることは無いが異臭が凄い、マスクをつけると良い」
村上君がアラタに、結構ごつめのマスクとゴム手袋を渡す。
「それじゃ再度検視しようか」
スマートウォッチをトレーニングルームのドア付近についている窪みにかざすと自動ドアのロックが解除される。
ウィーン
「行くぞ」
マスク越しでも異臭が鼻に来る。
「これは、いつの死体だ?」
「一日前だよ、いや正確には今日の朝だ」
――一日もたっていないのにこの匂い?――
「すこし、甘ったるいにおいがするだろ」
「いや、甘ったるいというよりすこし酸っぱいような…」
一同が一斉に
――まぁ解釈一致かな――
などと思ってそうな顔でアラタを見る。
「な、なんだよ」
「君、ここに来て運動したことはあるかい?」
「な、ないけど多分」
「だよね」
「この匂いはね」
「?」
一人だけゴーグルをつけている伊織が少しもったいぶっているのにしびれを切らしそうになったとこで健が代わりに袖をまくりながら言う。
「トレーニングする紳士淑女の汗と涙の結晶さっ!」
「あ、」
「だから私ココ嫌いなのよ」
少し、体がかゆくなってきた。
「あそこだよ」
指をさす村上君の先にはシートで覆われた死体があった。
その死体の横には100キロのダンベルが置いてあり、片方には血が付着していた。
「撲殺か、痛々しいな」
「彼女が被害者だ」
シートをはがすと頭蓋がぺちゃんこになっており顔をぱっと見で判別できないほどだった。
死体の周りには乾いた血や尿、脳みそや骨の破片。
その他内臓が少し漏れ出ていた。
「彼女ってことは涼介か、にしてもこんな人が来そうなとこで誰も犯人を目撃してなかったのか?」
アラタが誰でも思い付く疑問を村上君に投げかけると村上君はそれに応える形で別の場所を指さす。
「彼が恐らく唯一の目撃者だったんだろう」
村上君が指さす先はトレーニングルームの端っこにあるランニングマシーンが置いてある場所で、そのランニングマシーンの一台にシートがかけられていた。
その、ランニングマシーンのとこまで行き、そちらのシートもはがすとやはり遺体があった。
こっちの遺体は顔は判別できて、首にはタオルが巻かれておりそのタオルを取ると青く変色した素肌が現れた。
「こっちは縊死か」
「これらの遺体を見て君はどう思った?」
その場で長考するアラタ。
「これは、そっとしておいた方がよさそうだね」
「咲持ってくる意味あった?」
「…」
「損じゃねーか」
――何故二人は殺されたんだ?何が目的?そもそもこれは無差別なのか?二人の関係は?――
あらゆるパターンを考え、一つの些細な答えに気づく。
「意図的だ」
「何かわかったのかな」
「これと言ってデカい事じゃないんだけど、これは無差別殺人じゃなくてあらかじめターゲットが決まった計画殺人だ」
「なんでそう思ったのかな」
「ぱっと見だと二人が犯人の快楽のために殺された被害者だと俺は思ったんだが実際には涼介か尚人を殺しに来た犯人がその現場を見られて殺した。ちゃんと理由のある殺害だ。そして狙われたのは涼介で、見られたので殺されたのが尚人だ」
「どうしてそう思った?」
「仮に尚人がターゲットで邪魔な涼介を先に殺すってのも確かに考えられたんだけど、二人の殺害方法で大きく違うのは力の入り方だ」
「力の入り方?」
「首絞めと、頭蓋を割るほどの暴行。圧倒的に暴行の方が手間がかかる」
「確かにな、でもそれだけでなんで涼介が狙われた犯行だと決めつける手掛かりになるんだ?偶々そこにあったダンベルで殴っただけかもしれないぞ?」
「それもあるけど、犯行現場がトレーニングルームってのが一番の決め手だな」
「というと?」
「まず彼らの筋肉の付き方を見ると圧倒的に涼介の方が筋肉がついている」
二人の遺体を見比べると尚人は足の筋肉が少し付いているのに対し、涼介は全体的に筋肉が付いていた。
「多分尚人は普段の一日の初めとしてジョギングをやってたのに対し、涼介はトレーニングルームに入り日だっていたのだろう」
「だから涼介を殺すために犯人はトレーニングルームに行き、涼介を殺害。部屋の隅で尚人に見られたのでそのまま尚人も殺害。こういう事か?」
「あぁだが一つだけ分からないことがあるんだが」
「それは?」
「アロさんと涼介の共通点が分からないんだ」
とアラタが言ったタイミングで咲が目を覚ます。
「それ本気で言ってるの?」
「あぁ」
「私には一目瞭然だけどね」
目をこすりながらアラタに向かって指をさす。
「二人ともあなたの知っている人物じゃない」
「あ?」
咲に近づこうとすると礼二と伊織が二人の間に入り戦闘態勢に入る。
「それ以上咲ちゃんに近づくな」
「どけよ」
一触即発な雰囲気の三人に割って村上君が入る。
「まぁまぁ三人とも落ち着いて、アラタもただ咲は事実を言っただけだ。咲ちゃんも人を指ささないし言葉が足りなすぎ!」
「ごめんなさい…」
下をうつむく咲の頭に手を置いてよしよしする。
「謝るのは私じゃないでしょ?」
担架を降りてアラタに近づく咲を礼二が止めようとするのを村上君が止める。
「嶄さん」
「まぁまぁ大丈夫だから」
アラタの前に行き、二人が目を合わせる。
「「ごめん」なさい」
「!」
「ね?」
ほぼ同時に謝罪する二人に少し驚きを見せる礼二と伊織。
「言葉足りなかった」
「あいや、俺も冷静さを欠いてしまった。事件が起きた以上あらゆる可能性を皆に提示するのは正しいよ」
頷き、二人を微笑みながら見た後、手をたたきこれからやることをみんなに共有していく。
「じゃあ今まで分かったこと、もしくは気づいたことをまとめて行こう」
村上君の言った提案に一同はその場に集まって言い合い、それを村上君が紙に書いていく。
そして出そろったのが以下の通り。
・無差別じゃなくて意図的
・共通点はアラタの知り合い・髪の色が黒・同じ雑誌を買っている・美形・トレーニング好き
などと一通り出たタイミングで今まで何かを考えていた風太が口を開く。
「そういえば」
「?」
「アロガンと涼介ってどっちも元真人じゃなかったか?」
「真人?」
遡ること地球で一つの大きな戦いが終わった後、特別な力を持った人々はその日を境にその力が消えてしまいました。
彼らは真人と呼ばれた生き物で魔王によって生み出された存在。
それとは別に元人間が真人になった選別者もいました。
力を失った彼らは行く当てもなく途方に暮れているところに日本軍が彼らの処遇を決め、一方は被害者としてその身が自由となり、もう一方は加害者として死罪になりました。
当時12歳だった涼介は被害者として日本軍で暮らしていたとこに宇宙船{ノア}の招待状が届きこちらに半強制で身を置くことになりました。
「てことは、犯人は家族を真人に殺された被害者とか?」
「可能性はあるね」
「それじゃあこれらの結果をもとに次の現場に行きますか」
東エレベーター内に二人の遺体がこちらも今日の朝頃発見された。
「どう?風太なんか思い出せる?」
「あぁこいつらも元真人だよ」
「じゃあターゲットは元真人でほぼ確定かな」
「知人が真人に殺害された渡航者の名簿確認してきます」
「自分も行ってきます」
そういうと健と伊織は三階へともう片方の東エレベーターに乗ったのち、南の従業員専用エレベータで一階に行き名簿を調べに行った。
「んで二人はこの死体から分かることはあるかな」
二人の体を調べているとあることに気が付いた咲が村上君に言う。
「この二人近親交配で出来た子たちだよ」
――なんでガキが近親交配なんていう物騒な言葉を知っているんだ――と内心引きつつ咲が指摘する体の部位を見る。
「本当だ」
その部位は腰の骨盤に当たる部分だが、その骨盤には通常は無い取っ掛かりが二人とも同じ場所にあった。
「なんでそれだけで近親交配ってわかったのかな」
村上君が咲に質問し、その回答を辞書の如く丁寧に、だけどところどころ独特の言い回しを使いながら咲が言う。
「近親交配のリスクとしては、異形や病気にかかる子が一般の割合よりも高くなります。それは同じDNAが混ざり合うことによる弊害、簡単に言うとSミノとSミノの子供はSミノにしかなれないけど、SミノとZミノの子供はSやZ、もしかしたらTやL、Jミノになることだってできます。」
「みの?」
「まぁ簡単に言うと赤と赤を足しても赤にしかならないけど、赤と青を足すと紫にもなるしマゼンタやシアンになるかもでしょ?」
「えーっとつまり?」
二人の言い換えが独特過ぎて困惑しているところに礼二が割って入る。
「一個の遺伝子同士だと免疫を獲得できないけど、別の遺伝子同士が混ざり合うと獲得できるよねってこと」
「なるほど」
――っクソ!――
「その骨の形なら僕にもあるよ」
そういうと服を上にめくり骨盤を見せると確かに同じ個所に出っ張りがあるのが分かった。
「近親交配ってことは選別者じゃなくて真人だろうね」
「まぁどっちにしろ元真人なのか、って礼二も真人なのか?」
「伊織もそうだよ」
「じゃあ危険なんじゃないか?」
「まさか」
なんて会話を繰り広げていると村上君たちがつけているスマートウォッチが震え始める。
「もうすぐ夜が明けるみたい」
「俺たちも下に戻って次の尋問相手を決めるか」
「そうしよう、アラタ君はどうする?」
「え?」
「もう医務室行く必要ないしこれ以上拘束するのもあれだしね、お風呂とか入ったら?これ貸すよ」
そういうと腕につけたスマートウォッチをアラタに渡す。
「おい嶄それは」
「いいでしょ別に、それに後で予備渡すつもりだったし」
「一般人に渡すのは違反だぞ?」
「もう彼は一般人の分類に入れるには無理があるでしょ」
「ん?てことはなんだ?」
にんまりと笑いながらアラタに手を差し伸ばして村上君が言う。
「おめでとう!君は晴れて我々特別護衛団第一機担当メンバーの一人、ナンバー997だ!改めてこれからもよろしくね」
「え、協力するとは言ったけど、それは遠慮しときます」
「…おめでとう!君は晴れて我々特別護衛」
「言い直してもなかったことになんないです」
そうキッパリ断るアラタの耳に口を近づけて囁く。
「その時計、いろいろ便利だよ?写真も撮れるし自由にお風呂も入れる。おまけにゲームだって入っている」
「!!!」
今一度説明しよう。
この船内には一人のかよわい女性が筋肉に目覚めるほどに娯楽が無かった。
「是非とも」
「決まりだね」
「それ、職権乱用ていうんじゃ」
かくして特別護衛団第一機担当メンバーの仲間入りしたアラタ、その洞察力をもとにアロガンを殺害した犯人を捕まえることはできるのか!
タイムリミット14年4ヶ月26日
容疑者の数残り994人




