2.時計の歯車が君ならば、その歯車の部品に僕はなる。全編
走りながら東エレベーターに駆け込み、三階のボタンを押す。
エレベーターについてる鏡を見るとそこには泣いてる顔でも、怒ってる顔でもなく。
――っ!?――
眼球を血走らせ、歯茎をむき出してにやける顔が映っていた。
ピポン
『三階です』
エレベーターを降りて左に曲がり、そのまままっすぐと群衆の中に入っていく。
群衆の中を無理やりかき分けながら中心に近づいていく。
そんなアラタに文句を言う。
「ちょおすなって」
「…して」
「やめろよ」
「…おして」
「あそこから落ちたんだ」
「通して」
「面白くなりそうだ」
「通し…は?」
不敵な笑みを浮かべながらそんなことを呟いた渡航者を
――こいつ今なんつった?――
と、先ほど聞いた言葉を自分の聞き違いだと思いながらも殺意は渡航者を許さなかった。
渡航者に近づいていく。
「ふふふ、やっと退屈な」
「てめぇ」
「あ?」
渡航者の胸ぐらを左手でつかみ、殺意のまま行動する。
「もういっぺん言ってみろよ」
「は?おもしろくな」
その渡航者が「面白くなってきた」と言い終わる前にはすでに右拳は渡航者の顔面を通っていた。
「ッウグ!!?」
軽く二メートル左方向に吹っ飛び二人は群衆の輪を抜ける。
アロガンを見に来ていた群衆が一気にもめ始めたアラタ達の方を向く。
「なんだなんだ?」
「どうした?」
「あれ見ろよ」
群衆のざわめきに中央にいた数名も気づいた。
「ん?」
「あら?一体何事かしらね」
「私見てくるよ、店長さんカスミちゃんたちの事お願いね」
「任されたわよ」
アラタが少しの理性を頼りに渡航者に質問する。
「何が面白いって?」
「人が今一人死んでいるんだよ?この15年間まいっかいまいっかいおんなじことの繰り返し!売店なんてラインナップ変わらないし、外の景色だって変わらない!見てよこのおなか、おかげで腹筋バキバキだよ!!!」
「だから何だよ!」
「イレギュラーが欲しいのさ、スパイスが、異常が!人ってのはそこに興奮する生き物さ」
「てめぇ」
話の通じないいかれ野郎にそろそろ理性の限界がきて殴りかかろうとする、その瞬間。
上げた腕を何者かによって掴まれ、逆に五メートル先まで吹っ飛ばされてしまった。
床に体から頭、腕そして最後に両足が打ち付けられ、その衝撃のおかげで少し頭が冷え始めてきた。
「さーてと、少しばかりお話ししようか」
「誰だあんた?」
「私が誰だって今はいいでしょうに、まずはあなたの名前を聞かせて?」
渡航者と一緒にカフェテリアの窓際、昨日アラタとアロガンが座った四人席に、アラタと渡航者が向かい合う形で座りアラタを吹き飛ばした女はユグドラシルを背に二人の方を見ながら立っている。
「で、あなた名前は?」
「アラタ」
「苗字は?」
「無い」
「無いってことはないでしょ?それとも外国出身の人かな」
「知らん」
「えーー」
――話にならないし、こっちに聞くか――
「あなたは?」
「須藤涼介です」
・須藤涼介、年齢27歳、女。
「なんで二人はもめてたのかな?」
「こいつがアロさんが死んだってのに面白いって言うから」
「だってずっと退屈続きな監禁生活に異常が出たら誰だってその異常が何であれ面白いと思うでしょ?」
「てめぇ!」
殴りかかろうと席を立つアラタに冷静に諭しながら座らせる。
「そうか、君はアロガンと知り合いなのか」
「あ?」
「凄い、全部に突っかかってくるね若い若い」
「馬鹿にしてんのか?」
「いやそんなんじゃないんだけど、まぁそうだね誰だって友人の死を面白がられちゃ」
先ほどまで笑っていた女が涼介の方を睨む。
「嫌だよねぇ?」
「――っ!」
その場の雰囲気ががらりと一変し、空気は氷のように冷たくなり息をすることを意識しないと忘れるほどで、女の目つきはまるで首に刃物を当てられてるが如く鋭い。
「ご、ごめんなさい」
「なんで、私に謝るの?」
またにこりと笑い
――私じゃなくて少年に謝りなさいよ――
と言わんばかりに首をクイッとアラタの方に傾ける。
「ごめん」
「誰に謝ってるの?」
「ごめんアラタ君」
「許せるか――」
そこで先ほどまでの殺意が完全に消え、今まで起きた出来事を考え直しあることに気が付いたアラタが目を驚かせながら群衆の方を見る。
声を震わせながら二人に問う。
「皆、そうなのか?」
「少なくとも私は違うかな」
「気持ち悪い―――」
それは群衆に対して言ったセリフなのか、はたまたエレベーターの中にいたそいつに言っているのか、それはアラタにしかわからないこと。
「じゃぁ、アロさんは退屈な日々を消すために殺されたのか?」
女の笑みが消え、再度アラタに質問を開始する。
「君はこの事件の事、事故でも自殺でもなく殺人とみるんだね?」
「え?あぁどう考えたって、アロさんがあのバカ高い手すりから落ちるわけ無いだろ?」
言い忘れていたのだが、四階吹き抜けの手すりは170センチのアラタが背伸びして首を伸ばしてようやく吹き抜けを見下ろせるほどぐらいには高い。
「自殺の線は?」
「それもない、だって昨日アロさんは【また明日】と出会う知人皆に言っていた」
「じゃぁ何故他殺なのかな?」
「それはアロさんの死体を見たら一目瞭然だ、消去法というのもあるがあの仕切りを万が一にもよじ登る際、必ず靴の跡がガラスに突くはずだがそれは無かった。そして落ち方を見る限りあれは後ろから持ち上げられて落ちた人の落ち方だ」
アロガンの死体は・頭が上を向きながら向きは東・足は西・右腕が北で左腕が南
の大の字。
「なぜそう思ったんだ?それに汚れと言っても彼が飛び越えた可能性などは無いのかい?」
「170センチの手すりを178センチの彼が飛び越えるには少し無理がるだろう、でも仮に飛び越えれたとしても着地は足からなはずだ。高さ三十メートル近くある空間で体をねじらせるのは困難だろうしな。それに手すりから死体が離れすぎているというのもある。あれは後ろから前に押し出す力が加えられたための距離だ」
淡々と説明するアラタに内心驚きつつも冷静を保ちながら女も質問する。
「死体は直接は見てないよね?」
「吹き抜けからだ」
――吹き抜けから?こんなに遠い死体の状況を完璧に判断したということ?――
「確かに君の言った通りだよ、私たちもこれは殺人事件だとみている」
私たちとは具体的に誰なのかを考察しようとしたところで、アラタの身に異変が起きる。
「ウグッ」
「どうしたの?アラタ君?」
――耳鳴りがひどい――
「涼介!す$#@&*!」
――視界がぼやけて…あこれあかんやつだ――
その場に倒れこんでそのまま意識をなくす。
数日後、目が覚める。
「ここは?」
「アラタ君、目が覚めたかい」
「あんた、誰?」
「おほっほっ申し遅れたね、私は佐藤文田医務室の先生を担当している」
――医務室?――
ここは一階メンテナンスルームにある医務室。
なんでメンテナンスルームに医務室?って思ったそこのキミ、人の体でもメンテナンスするってことじゃないですかねわーっはっはwww
「俺は、そうだ倒れて、あの女は!?」
「村上君の事だね?今は尋問中だったかな」
佐藤先生が時計を確認する前に放送がなる。
ピンポンパンポーン
『まもなく、消灯時間です。
タイムリミットが過ぎるまでに自室に戻ってください。
また、活動を終了しタイムリミットまでに自室に戻ってください。」
「お、そうだねあと三十分ぐらいで戻ってくるよ」
「そうですか」
――三十分、暇だ――
暇、その言葉を思い浮かべると先の事を思い出してしまった。
「普通はつまらない…か」
「へーそれは面白いことを考えたもんじゃな」
口に出して言ったつもりはなかった言葉に焦って口を手で塞ぐも自分の相談に乗ってくれそうな先生を見て、続きを話す。
「渡航者に言われたんです、人は日常ではなくて非日常に興奮するものって」
「言い得て妙じゃな」
「そうですよね、俺もアロさんが死んでしまった異常を心の何処かでは面白くなりそうだと思っていたのかもしれません」
「ん-なるほどじゃな、君は記憶が無いと聞いた」
「誰からですか?」
「村上君じゃよ、もしかしたら今の君は思ってもないけど、昔の君が面白いと思ったのかもしれんな」
「昔の…俺……」
「昔の君はどこかネジが外れとったのかもな」
ほっほっほと自分の行ったギャグに笑いながらコーヒーを入れに行く先生に
――ノンデリすぎないか?このおいぼれ――
と思いつつも自分でも考えてみる。
――昔の俺、もしかしたら犯罪者だったのかな――
などと色々妄想しているうちに村上君と呼ばれていた女が部屋に入ってくる。
「どうですか?先生、彼まだ目覚まさないですか?」
「君は砂糖いるかね?」
「ミルクマシマシ、砂糖多めでお願いします」
「って起きてるぅぅぅぅぅぅぅ!」
先生が自分とアラタと村上君の分のコーヒーを入れて少し飲む。
――いつもと変わらない味だな――
「先生!起きたなら起きたって連絡くださいよ!何のためのスマートウォッチですか!」
「すまんすまん、ちょうどチャイムが鳴ったからいらんと思てな」
「いらんと思てな。じゃないです!彼には聞きたいことが山のようにあるんですから!」
「俺に?この前質問には答えたじゃないですか」
――まだなんか用?――
と思いつつもキョトンとベットに腰を掛ける。
「もう起き上がっていいの?」
「あぁ、彼は別になんかの病気でもなさそうだし、恐らくは前の記憶に触れて軽いショックで倒れたんじゃろ」
「軽いショックって…」
――何故医者というものは病名をいう時にいつも軽いをつけるんだ――
村上君が日本の病院で診察を受けたときの記憶がよみがえる。
【軽い複雑骨折と軽い内臓損傷ですね】【軽いですか!?】
「まぁそれはそうと、私は村上嶄よろしく」
握手をしようと右手を出す村上君に、右手で持っていたコップを左手に持ち替えて握手するアラタ。
「どうも…」
「さっそくで悪いんだけどよく聞いてくれないかな」
「はい?」
そういうと村上君が四枚の写真を出し、そのうちの三枚を順に表にしてアラタに見せていく。
「彼と、彼女、それから彼に心当たりはないかな」
写真は背景が青の顔写真になっており、その下には名前が書いてあった。
右から・吉野海斗、男・吉野正、女・鈴木尚人、男。
「いえ、見覚えは――――あ」
「心当たりが!?」
「この男女、吉野海斗と吉野正は昨日じゃないか、こないだカフェテリアでコーヒーを飲んでた時に、確かいた気が…」
「知人友人というわけではないということか」
「はい、それがどうしたんですか?」
続けて四枚目の裏側にしてあった写真をアラタに見せる。
その写真の人物には見覚えがはっきりとあった。
「須藤涼介…」
「ん?あぁそうだね一昨日君と言い荒らそっていた彼女だ」
――一昨日、てことは今日は4日か――
「彼らがどうしたんですか?」
眉間にしわを寄せながらアラタが眠っていた約二日間にあった出来事を言う。
「彼らが死体で発見された」
「…は?」
「四名とも他殺だ」
「この船内で一体何が…」
「単刀直入に聞こう」
そういうと一枚の紙をアラタに渡す。
従業員書と書かれた名札には村上嶄以外にもこう書かれていた。
「特別護衛団第1機担当?」
「まぁ要するにはこの船内の警察ってとこだ」
「警察…」
「早速ですまないが君、私たちに協力してくれないか?」
――私たち?――
「あなた方は?」
ちゃんと締まり切っていないドアの隙間から何人かの顔がこちらをのぞかせて小声で言い争っているのが聞こえた。
「馬鹿!もう少しそっち行けって!」
「風太さんこそ!邪魔なんですーーー!」
「健!何とか言ってくれ!!!」
「お、俺っすか?」
「コラ!」
「「「ひぃぃぃ!」」」
ドアの前にいた彼たちをアラタの前まで持ってくる。
「ったく来るなっつたのに」
「ごめん」
「ごめんなさい」
「はぁ、紹介するよ右から」
・村上風太年齢44歳、男
・岡田健年齢35歳、男
・千葉伊織年齢不明、女
・丘野礼二年齢不明、男
「あれ?咲ちゃんは?」
「もう寝るって」
「あそう」
「あとこん中に鈴森咲って女の子がいるんだけど、計六人がこの船内の警察かな」
・鈴森咲年齢15歳、女
「君も私たちと一緒に犯人捜し、協力してくれない?」
無差別か意図的か、犯人は一人か複数か。
この事件にかかわるのは安全か危険か、彼らは使えるか使えないか。
あらゆる損得を考える暇もないほどの即答。
「もちろん」
たとえこれが悪手だったとしても。
ピンポンパンポーン
『消灯時間です。消灯時間です。
直ちに各自の部屋に戻ってください。
消灯時間です。消灯時間です。
直ちに各自の部屋に戻ってください。
電気が消えます。電気が消えます。』
船内が彼らのいる階層を除いて闇に包まれた。
「さぁ、現場に行こうか」
「今から!?」
「もちろん」
――自分、病み上がりなんですが…――
こうして、一般渡航者は知らない夜の調査が始まった。




