1.自分にとっての普通はきっと、あなたにとっての異常だから。
「はぁ、えっとコーヒー、コーヒーっと」
あくびをしながらドリンクバーにあるコーヒーを探し、コップに注ぐ。
コトコトコト…
「えっとミルクはーっと、え?今日の分終わり?マジかよぉテンション下がるぜ」
いつもの・三割コーヒー・五割ミルク・二割砂糖
の組み合わせが出来ずに、仕方なく今日は・七割コーヒー・三割砂糖
で我慢することにした。
サッサッ…
「えーーっと、あっ!ラッキー今日窓際開いてんじゃんテンション上がるなおい」
窓際の空いてる四人席に腰を掛け、コーヒーを啜る。
ズズ…
「ふぅ、にしても相変わらず綺麗だな」
外の景色に浸っていると、船内アナウンスが流れる。
ピンポーンパンポーン
『皆さん、おはようございます。
今日で、15年と7か月と1日が経ちました。
火星までの航海は残り。
14年と4か月と30日です。
さて、それでは今日の地球で起きた出来事をお伝えします。』
アナウンスをラジオ代わりに、外の景色を見ながら優雅なティータイムを送る。
「まだまだ、遠いな」
そう男が見る光景は、眼前に広がる一面の闇にポツポツと米に振りかけられたごま塩のごまのように広がり、真ん中には日の丸の梅干しを連想させる火星があった。
「どっかで見たことある光景なんだよなー」
「アラタ氏~」
声のする方へと振り向くと、腕を大きく振り、誰かの名前を大声で呼んでいる右目に眼帯を付けた男がいた。
――心なしか、カフェテリアで休憩してる人が引いた目をしてる気がする――
「アラタ氏、今日はとても良い席に座っていますね」
「アロさんおはよー、ねぇ聞いてよ」
和気あいあいと先ほど起こった、ミルクが無くてテン下げだけど良い席座れてテン上げでプラマイゼロと言う会話を二人が繰り広げるココ、三階{カフェテリア}は多くの渡航者の三大癒し空間である。
ちなみに、残りの一と二は{大浴場}と{トレーニングルーム}である。
っと彼らの紹介を忘れてましたね。
「アラタ氏、それは誠に面白い話ですね」
少年をアラタ氏と呼ぶ彼は・丘野アロガン、年齢不明、男。
以前に、地球で何か起こった時にできた名誉ある傷。と彼は自称しているが真意は不明だ。
「だろぉ?後そういえばね」
そう楽し気に話しているアラタ氏と呼ばれている少年は・アラタ、年齢不明、男。
実はこの少年はココ、{ノア}に来るまでの記憶がどうやらないらしい。真意は不明。
それで三階から四階の吹き抜けに聳え立っている木、{ユグドラシル}のふもとのベンチに腰を掛けて悩んでいるところをアロガンに発見され、悩み事を話したら【ならば私が名前を決めましょう】と張り切った結果。アラタという名前になった。
「そろそろ、行きますか?」
「そうだね、行こう」
コーヒーをグビッと全てを一気に飲み干して席を立ち、周囲にいる渡航者に{聞き込み}を始める。
「すみません、彼の顔を知っていますか?」
「すみません彼の」
「すみません」
「すみま」
「すみ」
「すみ」
「す」
「す」
「s」
「s」
「s」×10
さっきから彼たちが何をしているのか気になった人も出て来たころだろうから説明すると。
さっきも言った通り、アラタには記憶が無い。
そして、この船内{ノア}に乗船するには必ず同行者、二人以上が絶対条件になっている。
このことから、必ずアラタと乗船した人がいるはず!なのだが…
「さっきの人で564人…」
「全員揃って{知りません}ちょっと傷ついてきた…」
564人に{彼のことを知っていますか?}と聞いても{知りません}あるいは{誰ですか?}と目を合わせながら言ってくる人々の言霊により、若干のナイーブになりつつあるアラタ。
「もう僕は誰からも…」
「ちょっと元気出してよアラタ氏!えーっとこういう時なんて言ったらーーーーー」
落ち込んでいる人の慰め方を考えているとき、救いのアナウンスが船内に響いた。
ピンポンパンポーン
『まもなく、消灯時間です。
タイムリミットが過ぎるまでに自室に戻ってください。
また、活動を終了しタイムリミットまでに自室に戻ってください。』
タイムリミット2:00.00.00
タイムリミット1:59.59.87
「あ、ああアラタ氏もうすぐ消灯の時間です、すぐにお風呂に入って自室に戻りましょう」
「え?もうそんな時間か、分かったよ」
――おお神よ!私をお救いしてくれたことを感謝します!!!――
胸をなでおろしながら天を仰ぎ、神に感謝するアロガンを
――何やってんだコイツ――
と思いながらも大浴場に向かう。
ピポン
『二階です』
エレベーターを降りると目の前には広い廊下が広がっており、左手に大きなガラス張りの自動ドアがあり、そのドアの横に教室の番号が書かれた札みたいに、{トレーニングルーム}と書かれた文字が見え。
右手には手前から{男}{混浴}{女}と書かれた湯のれんがあった。
「髪乾かすのめんどくさいんだよなー」
「いつもちゃんと乾かしてないくせに」
そうたわいもない会話を繰り広げていると一組の家族がアラタ達の隣を横切る。
「礼二結構男前になったんじゃないのか?」
「そう?」
「ウラ見る目なさすぎ、まだ子供よ。ねー」
――あの家族いつも混浴はいるけど仲いいんだな――
そう思っていると母親がこっちに気づき歩いてきた。
――なんだ?――
「先輩、お久しぶりです」
「よっアロガン、この子が例の?」
実は顔見知りだった二人に驚愕し口が閉じずにいるアラタを見て爆笑するカスミ。
「なにwwその顔www」
「あげげ(あれれ)?あがが(顎が)」
「もしかしてwww外れたの?wwwww」
そう彼女が笑いながらも彼の顎をそっと触った瞬間ガクンと一気に顎が上に引き寄せられた。
「ぅ痛ったい!」
「なにwwwぅいたぁいってwwwwww」
「あまり馬鹿にしてあげないでください先輩、そろそろ泣いてしまいます」
そうアロガンに忠告されたのでアラタの顔を除くと本当に涙目になっていた。
「うわぁごめんごめんね?そんなつもりじゃ、ごめんね?」
「許す」
「アラタ氏?即答マジですか」
手を胸の前で合わせて片目を閉じてお願いするカスミが可愛かったので許すことにした。
「じゃぁ私もう行くね?アラタ君、困ったことが合ったらいつでも言ってね?私{売店}で働いてるから」
「分かった」
「ふふっまたねアロガン」
「先輩も、また明日」
そういうと早歩きで家族のもとへと帰っていき、混浴に入っていった。
――俺も混浴入ろうかな――
「行きますよ?アラタ氏」
「…」
「?」
改めて男を見ると少しばかり悲しい気持ちになってしまった。
「華が無い…」
「華?」
トボトボと歩きながらも男子更衣室に入り服を全て脱ぎ、支給されているタオル一枚を持って大浴場に入る。
「いつ見ても圧巻ですな」
「そうだね」
大浴場もカフェテリアで見た同様の景色が広がっていた。
「富士山もいいけど、宇宙も悪くないね」
「そうですか?」
「まぁちょっと恋しいか」
髪の毛を洗い水で流し、洗顔をして水で流し、体を洗って水で流した後、ようやく湯船に浸かることができた。
ザバーン
「あぁぁぁぁ効くぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「ですなぁぁぁぁぁぁ」
――今日一日中聞き込みで疲れた体には一番の薬だ――
風呂から上がりもう一度、体全体を水で洗ってから大浴場を出て体を拭き、支給された服に着替え、支給された歯ブラシと歯磨き粉で歯を磨き、二分程度髪を乾かしてからタオルを肩にかけ髪で服が濡れないようにガードしつつエレベーターに向かう。
「なんで俺とアロさんの部屋ってこんな離れてるんだろうな」
「部屋の振り分けをした後に知り合ったんですから、当然と言えば当然です」
アロガンの部屋は四階で、アラタは五階。
言い忘れたのだがこの船{ノア}は全部で五階層まであり、一階は{メンテナンスルーム}兼従業員部屋
二階から五階だけを渡航者は五つあるエレベータでのみ移動できる。
なぜエレベーターだけかというと、階ごとの間の壁がありえないほど分厚くエスカレーターだと一階層移動するのに三十分弱はかかってしまう。もちろん考案されたエスカレーターが安全上凄く遅いからという理由もある。
そして、そのエレベーターは船を上から見たとき、前つまり先頭側はほぼガラス張りのためエレベーターはついておらず右に二つ。左に二つ。船尾はエンジンが搭載されてるため、エレベーターは従業員専用が一つの計五つ。
ちなみに一階まで行く手段として従業員用のエレベーターを使うか、アラタ達が乗ってる右、東エレベーターで行く二つの手段しかない。
だがその二つともカードキーが必須となっているため、一般の渡航者はまず近づけない。
そして、アラタとアロガンの部屋は共に船尾、南側にあるため、中々部屋から部屋に移動するのに時間がかかってしまう。
ウィーン
「それでは、アラタ氏お休み」
「アロさんお休み~また明日」
「はい。また明日」
ウィーン
――今日も何も成果は無かったな――
エレベーターが揺れている。
――本当に俺って何者なんだろう――
エレベーター内にある鏡に映る自分に問う。
――まいっか!アロさんと聞き込みしても何も情報が無かったら、アラタとしてアロさんと面白おかしく暮らすんだ――
エレベーターの表記が五になる。
ピポン
『五階です』
「そんな面白おかしく暮らすのが俺の!この話の物語だ!」
タイムリミット0:32.23.09
タイムリミット0:00.00.00
アナウンスが船内に響く。
ピンポンパンポーン
『消灯時間です。消灯時間です。
直ちに各自の部屋に戻ってください。
消灯時間です。消灯時間です。
直ちに各自の部屋に戻ってください。
電気が消えます。電気が消えます。』
五階から順に電気が消えていき、人影のないカフェテリアには星々の光とかすかに太陽の光を反射する火星の光が窓から入っていた。
『施錠完了。皆様おやすみなさい』
こうして宇宙船ノアの一日が終了した。
次の日…
「今日は遅くまで寝ちゃった、アロさん怒ってるかな?」
アラタが自分の部屋のドアを開けてエレベーターに乗り、四階のアロガンの部屋まで行こうとする。
「なんで四階だけ吹き抜けで五階は吹き抜けじゃないんだろうな。こういう時、アロさんを上から探せないから面倒くさいぜ」
なんて愚痴を言いながら西側エレベーターに乗り込み四階のボタンを押す。
エレベーターが動く。
ピポン
『四階です』
エレベーターが開くと人々の声が聞こえてくる。
――今日はやけに賑やかだな――
出てすぐ右に曲がりアロガンの部屋を目指す最中に、三階のカフェテリアにアロガンがいないかも見ながら進む。
――にしても相変わらずデカいなこの木、酸素を出してるんだっけ?アロさんが自慢してたな――
【ニッスン炭素を酸素に変える魔法がーー】【胡散臭っ】
少し進むとようやく木の反対側を見下ろせるようになった。
するとなんだか一点に人が何かを囲んで密集するのが見えた。
――騒がしかったのはこれか、人が一人、いや複数人に囲まれてるしなんか芸やってんのかな――
よく見るとその中につい最近見知った顔がいた。
――あれは、仲良し家族じゃないか、それと男が三人に女が二人?あの大柄な人は女だよな?――
もしかしたらあの中にアロガンがいるんじゃないかと思い目を凝らす。
「…いた」
皆に囲われている人たちの中にアロガンがいた。
いや、正確に言うと皆がアロガンを見に囲っていた。
アラタが見た光景は。
野次馬を遠ざけるために何人かがガードしていて、その中に仲良し家族がうずくまっていて、そのさらに中に
周囲に血を流しながら息絶えているアロガンがあった。
「嘘だろ?アロさん」
この物語は和気あいあいと自分の記憶を取り戻す話でも、アロガンとこの航海を楽しむ物語ではない。
静かにアラタが何かを呟きながらアロガンを見続ける。
「…してやる」
――絶対俺が――
そう、この物語は船内にいる容疑者、自分を除き998人の中から殺人犯を見つける。
途方もない、犯人捜しである。
タイムリミット14年4ヶ月29日




