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なおちゃんがアパートから持ってきたのは、小さなショルダーバッグ一つだけだった。
確かに、荷物がこれだけなら僕の車でも問題ないね。
車を出してしばらくしてから僕は尋ねた。
「中身は、無事だったかい?」
助手席でバッグの中身を確認しながら、彼女は頷く。
「うん。マイナカードもキャッシュカードもEdyもwaonも病院の診察券も全部無事だったよ」
そんな大切なもん忘れていったんかい!
「大きな荷物は、全部引っ越し屋さんに持って行ってもらったのだけど、これだけは自分の手で持っていくつもりでいたのに。出発前に、トイレに忘れてきちゃって」
「それで大家さんが知らせてくれたんだね」
「うん」
「大家さんが、いい人で良かったね」
「うん。いい人だよ。私の事情を知っていたから、元旦那がアパートにやってきても追い払ってくれたし」
「え!? 元旦那こんなところまで来たの?」
「来たんだよ」
「ストーカーかよ」
「ストーカーだよ。とにかく、居場所を突き止められちゃったから、しかたなく引っ越す事にしたの」
「接近禁止命令とかは、出ていないの?」
「裁判所から出ているよ。でも、アパートには防犯カメラとか無かったから、証拠が残っていないし……」
「そっか」
「それとさ、気をつけて欲しいのだけど」
「なに?」
「あいつ、れいちゃんの所にも来るかも……」
「なんで僕のところに?」
「従兄弟だから」
「いや、まあそうだが……」
「あいつ、私のスマホを勝手にチェックしていたらしいの」
「そこまでするの!? キモ!」
「キモいよ。もう、何人かの友達のところへ行って『妻が行方不明なのですが、何か知りませんか?』と聞いて回っていたらしいの」
「え? 妻って? だってもう離婚?」
「離婚した事を、知らないかもしれないと思ってそう言ったんじゃないかな? でも、友達はみんな私が離婚した事を知っていたから、その場はとぼけて、後で私に教えてくれた」
マジかよ。かなり病的な奴だな。
この調子だと、本当に僕のところにも……は! まさか、あの白いカムリは……
「れいちゃん。ちょっとこの先の、イオンモールに寄ってもらっていいかな?」
「え? いいよ。何か買い物?」
「ううん。もうお昼だし、何か食べていこう」
「そうだね」
「ここは私がおごるから」
「え? いやいいよ」
「ううん。おごらせて。車を出してくれたお礼。ガソリンだって安くないでしょ」
「まあ……そこまで言うなら」
交差点を左折して、イオンモールへ向かう道に入った。
「ところでさ、元旦那って、どんな車に乗っていたっけ?」
「え? 元旦那の車? アルファードだよ」
カムリじゃなかったのか。
ん?
「元旦那のアルファードの色は?」
「え? 白だけど……」
白か。じゃあ違うな。さっきからずっと、一定間隔で着いてくる黒いアルファードは。
「しかし、アルファードって高いんでしょ? 旦那って金持ちだったの?」
「金持ちじゃない。毎月のローンで大変だったよ」
「え? そうなの……あ! 残クレアルファードって奴か」
「そう、それ」
そんな事を話しているうちに、車はイオンモールの駐車場に入った。




