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土曜日のイオンは客が多かった。
ここの飲食店は多いのだが、どこも列ができている。
僕らはあちこち迷った挙げ句、比較的空いていたパスタの店に入った。
幸いここの駐車場は三時間無料だから、駐車料金の心配はないのだが……
「なおちゃん……ここって高いよ」
僕はメニューを見てから、周囲に聞こえないように小声で言った。
だいたいにして、これだけ人が多いときに行列がなかったり少なかったりする店は、味がマズいか値段が高いかのどちらか。
ここは後者だったようだ。
「やはり、僕も出そうか?」
「大丈夫だよ。元旦那から、たっぷり慰謝料もらったから」
「え? そうなの……」
アルファードのローンが残っているのに大変だな。
「だって私、殴られたり蹴られたりしたんだよ。今でも身体にあざが残っているし……」
「そりゃあ、元旦那が悪いよな」
まあ、暴力で物事を解決しようなんて奴には良い薬だな。
たぶんそういう奴は、子供の頃から弱い者イジメとかをやっていたのだろう。
子供の頃に暴力を使って思い通りにしていた奴が、大人になってもその成功体験から暴力をふるって破滅するなんて事は少なくないらしいし、そういう奴だったのだろうな。
そんな奴には同情の余地なし。
ここはありがたくご馳走になろう。
「じゃあ、ジェノベーゼセットで、スイーツはティラミスでいいかな?」
「いいよ! もっと高いの頼んでもいいのに」
いやいや……これでも十分高いから……
「ねえ。慰謝料はもう全額払ってもらったの?」
「まだだよ。手始めに百万。その後は毎月少しずつ払うって」
「百万!? そんな大金、すぐに用意できたの?」
「うん」
「元旦那は金持ちじゃないのだろ。どうやって用意したんだ?」
「知らない。借りたんじゃないかな?」
だとすると……アルファードは手放したのでは?
「あのさあ、ちょっと聞いて欲しいんだけど……」
「ん?」
僕はここ数日の事を、なおちゃんに打ち明けた。
「ええ! なにそれ? その車って毎日、れいちゃんの隣に停めているの? キモい! それってトナラーというより、ストーカーじゃない」
「そうなんだ。でも、僕にはストーカーなんかされる覚えはないし……」
「分かんないよ。れいちゃんに一目惚れした女が、つきまとっているのかも……」
「ないって、それは……そんなにもてないし。それより、なおちゃんの話聞いて、まさか元旦那ではと思ったのだけど……」
「うん。あいつならやるかも」
「でも車がアルファードだって言うから、違うかなと思ったのだけど」
「あ! そうか」
「でも、なおちゃんに慰謝料百万円をすぐに出したのだろう? そのお金って、アルファードを手放して手に入れたのでは」
「あ! そうかも……」
とりあえず、なおちゃんに車の写真を見せた。
「ううん……どうだろう?」
なおちゃんはしばらく考え込んだ。
「アルファード手放して、中古のカムリを手に入れたとしても、こんなに汚くしているかな? あいつ休日になると、何時間もかけて車を洗っていたし」
「そうなの?」
「うん。そんな車ばかり洗ってないで、家の掃除も手伝ってって言ったら殴られたし……」
つくづくひどい男だ。
そんな話をしていたら、かなり時間が経っていた。
駐車場に戻ったのは料金が発生する十分前。
精算機の前にできている行列に並んでいる間に、なおちゃんには先に車に戻ってエンジンをかけてもらう事にしたのだが……
「れいちゃん」
ようやく精算が終わった時、車の方へ行っていたなおちゃんが戻ってきた。
「なおちゃん。車が見つからないの?」
だだっ広い駐車場だから、どこに車を停めたか分からなくなったのかな?
と思って聞いたのだが、なおちゃんは首を横に振る。
「車はあったのだけど……」
「ん?」
「れいちゃんの言っていた車って……」
「え?」
やだな。まさか……そんな事って……
だが、なおちゃんと一緒に戻った僕のコペンの横には、あの白いカムリが停まっていた。




