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トナラー  作者: 津嶋朋靖


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「な……なんで?」


 僕はカムリに駆け寄った。


 もしかすると、よく似た別の車ではないか?


 ……いや、この期待は何回目だよ。


 いつもそう思って確かめる度に、期待が裏切られているじゃないか。


 そして今回もナンバープレートを確認して、いつもの車だと確定してしまった。


 なんでだよ!? 駅前ならともかく、たまたま立ち寄ったイオンにまでなんで現れるんだよ!?


 頭を抱えている僕の横で、なおちゃんがカムリにスマホのカメラを向けていた。


 二~三枚撮ったところで、なおちゃんは真剣な面持ちで僕の方を振り向く。


「れいちゃん! 早くここを出よう!」

「そ……そうだね」


 ゆっくり見ている場合じゃない。


 この駐車場は、精算してから十五分以内に出なきゃならないんだった。


 だけど、なおちゃんが()かした理由は別にあった。


「れいちゃん。やっぱり、あの車は元旦那かもしれない」


 なおちゃんがそう言ったのは、駐車場のゲートを出た直後。


「え? なんで? 元旦那はきれい好きなんでしょ?」

「そうだけど、あの車のナンバー見たでしょ?」

「ああ。いつものナンバーだった」

「そうじゃなくて、『わ』ナンバーだったでしょ」

「え? 『わ』ナンバー?」

「ほら。車のナンバーってさ、ひらがなが一文字入っているじゃない」

「ああ、入っているね」


 ちなみに僕の場合は『な』だったけど、あのひらがなにどんな意味があるかは知らない。


「『わ』の付いているナンバーはね、レンタカーなのよ」

「え? あれってレンタカーなの?」

「レンタカーなら、汚くしていても不思議はないわ。あいつ、自分の車は大切にするのに、レンタカーは大切にしないから」

「でも……レンタカーに、傷なんかつけたら弁償させられるよ」

「うん。そこまではやってないけど、車に泥が付いたり、鳥の糞や虫の死骸が付いていても、そのまま返却するし、それでレンタカー屋と何度も揉めているし。ひどいときは車内に海岸の砂を入れて、高額な清掃代を要求された事も」


 よくブラックリストにならなかったな。


「ガソリンを満タンにしないで返した事もあったのよ。私は『ガソリン入れなくていいの?』って聞いたら『俺の買ったガソリンで、次の奴が得するのが許せない』なんてこと言っていた」

「うわ! マジ! どんだけケチなんだよ」

「でも、そんなことするから、車を返すときに余計に高いガソリン代を請求されたのよね」


 そうだろうな。


「駐車違反の黄色い紙を貼られた時なんか『黙って返せばいいよ。どうせ請求書は、レンタカー会社に行くから』なんて事を言っていたし」

「それはひどいな」

「でも、それを言った直後にレンタカー会社から『駐車違反をしましたね。直ちに警察へ出頭してください』って電話がかかってきて慌てていたよ。『なんで分かったんだあ!』って叫んでいて、思わず笑っちゃった」


 むしろ、なんでばれないと思うんだ。


 レンタカーで駐車違反なんかやると、すぐに警察からレンタカー会社へ連絡が行くというのに。


 車が信号で止まったのはその時。


「それでさ、気になったのはこれなんだけど……」


 そう言ってなおちゃんは、スマホを差し出した。


 その画面には、車内にあったヌイグルミが表示されている。


 手術痕のあるヌイグルミだ。


「パッチワーク・ピップ」

「え? ぱっち……? なに?」

「パッチワーク・ピップっていうヌイグルミ」

「ああ! そんなキャラ名があるんだ」

「元旦那の好きなロックバンドのマスコットキャラだよ」

「え?」

「アルファードの中にも、これがあった。かなりマニアックなバンドだし、持っている人はそんなにいないと思う」


 こりゃあ、決定だな。


 あのカムリの運転手、なおちゃんをストーカーしている元旦那だ。


 なおちゃんが僕のところに来ないか見張っていたのだろうな。

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