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この車はよく似ているだけで、別の車ではないのだろうか?
と、ちょっとだけ期待したのだが……
白いカムリの中を覗き込むと、ダッシュボードの上には、昨日と同じく手術痕の様な模様がある悪趣味なヌイグルミが置かれていた。
助手席にあったトートバッグも昨日のまま。
何よりもナンバーが一致しているから、いつも隣に停めている車だという事は間違いない。
いったい何なんだ?
意図的にやっているのは分かった。
こんな事が偶然であってたまるか。
問題は、どうしてこいつは駐車場を変えた事が分かったのかだ?
さて、どうしたものか……よし!
張り込もう。
どうせ明日と明後日は仕事休みだから、早く帰って寝る必要はない。
去年母さんが死んでから、家には僕一人。
食事のために急いで帰る必要もない。
車の中でコンビニ弁当を食べながら、車内でカムリのドライバーが帰ってくるのを待つ事にしよう。
待っても意味はないかもしれない。
帰ってくるドライバーが、ヤクザとか怖い人だったら僕は何もできない。
でも、もしかすると話の通じる人かもしれないし……
そうでなくても、おそらくカムリの運転手の目当てはコペンの前のオーナー。
つまり佐伯先輩だと思う。
先輩は本当に何も知らないのか、とぼけているのかは分からない。
だが相手の目当てが先輩なら、ここでコペンの中にいる僕の姿を見せて、車のオーナーが変わった事を分からせてやればいい。
奴がそれに気づいたら、もうつきまとうのはやめてくれるかもしれない。
あるいは僕に『前のオーナーはどうした?』とか聞いてくるかもしれないな。
その時は事情を聞いて、先輩に非が無いのなら『この車は中古車屋から買ったので前のオーナーなど知らん』ととぼけておこう。
もし先輩に非があったのなら、先輩の住所と電話番号を教えてやればいい。
その結果復讐でもなんでもすればいいさ。先輩に……
それじゃあ先輩が大変だと思うけど、僕が先輩の身代わりにされるなんてたまったもんじゃない。
突然、スマホの着信音が鳴ったのは、近くのコンビニで買ったおにぎりセットを食べ終わった時の事。
スマホ画面には『なおちゃん』と表示されていた。
なおちゃんは二つ下の従姉妹だ。
昔はよく遊んだけど、二年前になおちゃんが結婚してからほとんど会わなくなっていた。
母さんの葬式の時に久しぶりに会ったのだが、あの時から会っていないな。
どうしたのだろう?
電話に出てみた。
『れいちゃん、久しぶり』
「久しぶりだね。どうしたの?」
『あのさ……明日ってひま?』
「明日? まあ、土曜日だしひまだけど……」
『れいちゃん、車を買ったって聞いたけど……』
「買ったよ。中古だけど」
車を買ったことは、家の近くに住んでいるなおちゃんのお母さん……僕の母の妹に当たる人……に話してあるから、そこから伝わったのだろうな。
『明日さ、車に乗せてくれないかな』
「え? それはかまわないけど、なおちゃん車持っていたよね。故障したの?」
確か葬式には車できたはず。
『あれは旦那の車だから。離婚したから今は車ないの』
「え! 離婚したの?」
『知らなかった?』
「初めて聞いた」
『そっか。母さん話してなかったんだ』
「まあ、車に乗せるぐらいならかまわないけど、僕の車は小さいから二人しか乗れないよ。荷物もあまり積めないけど、それでもいいかな?」
『いいよ。じゃあ明日。詳しいことはメールで送るね』
エンジン音が鳴ったのは、電話を切った時。
「あっ!」
隣を見たときには、すでにカムリは走り出していた。
そのときに目に入ったのは後席の窓。
ここからでは運転手の姿は確認できない。
いつの間に運転手が乗り込んでいたんだ?




