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「あの人、なんであんなに警察を嫌がるのかしら?」
遠ざかっていくヤリスを眺めながら、なおちゃんは言った。
「さあ? でも、佐伯先輩なら、やましいことの一つや二つありそうだからな。それに、富和さんの誤解につけ込んでのワイセツ行為だって、十分に犯罪だろう」
そう言って僕はスマホを取り出して、五十嵐刑事に電話をかけた。
五十嵐刑事は最初眠そうな声で応対したが、犯人が分かったと言ったら、俄然質問を浴びせてきた。
とりあえず今までの経緯を話すと……
『事情は分かりました。できれば直接お会いしてお話をうかがいたいのですがよろしいですか? 発見されたGPSも、お預かりしたいので』
「ええっと、どちらの警察署まで行けばよろしいのですか?」
『今はどちらにいらっしゃいますか?』
「中央道上りの石川パーキングにいます」
『石川パーキングですね。それでGPSが次に電波を出すのは、何分後になりますか?』
僕は腕時計を見てから答えた。
「次は二十五分後です」
『では、その時間までに到着しますので、そこから動かないでいただけますか』
「いいのですか? こっちから行かなくても」
『実はですね。吉部の父がまだ市内を車で走り回っているのですよ。下手に動くと遭遇する危険がありますので』
「え? いや、実はさっき遭遇しそうになったので」
『それは危ない。やはりそこからは動かない方がいいですね』
「しかし、ここだって来るかもしれないですよ」
『高速道路の上は、むしろ安全なのですよ』
「なぜですか?」
『高速道路は監視カメラが充実していますからね。それを使ってAIが見張っているのですよ。吉部の父が高速道路に入ればすぐにわかりますので』
「なるほど。しかし、AIで見つけられるなら、今から銃刀法違反か何かで逮捕できないのですか? 家を出るときに包丁を持っていたというし」
『さっきそれをやろうとしたのですが、あの男は我々が待ち構えている事を予想したのか、包丁をどっかに捨てたようなのです』
「え?」
『凶器が見つからない上に「ただドライブをしているだけだ」と言われたら、警察としても対応できませんので』
「そうですか」
では、ここにいる方が安全だな。
電話を切って、なおちゃんの方を見た。
「ここで警察を待つことにしよう」
そのまま僕たちは飲み物を買いに自販機に行った。
ベンチに腰掛けてコーヒーを飲みながら僕はなおちゃんに話しかける。
「吉部が死んだって事は、慰謝料はどうなるのかな? 死者からは取り立てられないだろうし」
なおちゃんは少し考え込んだ。
「弁護士に相談してみないと分からないよ」
「そっか。遺産があると思うけど」
「ないない。あいつ借金だらけだし」
「なおちゃん。生活費の方は大丈夫なの?」
「結婚前に貯めていた貯金があるから大丈夫。それに吉部に付け回される事が無くなったから就職も出来るし」
「そっか」
「れいちゃん。さっき先輩さんと一緒にいた女の子」
「ん? 新城さんがどうしたの?」
「新城さんというの? なんかれいちゃんの姿見て狼狽えていたけど……」
「ああ! 佐伯先輩の毒牙にかかった事を、職場で言いふらされるのではないかと心配なのだよ。もちろん、そんな事をするつもりはない」
「そうかな? 違う理由だと思うけど」
「え? どういう事?」
「言いふらされる前に、一番見られたくない人に見られて狼狽えていたんじゃないの?」
どういう意味だ? 一番見られたくない人って?
「だから、れいちゃんに見られたのと、私が一緒にいたのがショックだったって事」
「なんで?」
「鈍いなあ。彼女がれいちゃんを見る目、恋する乙女の目だったよ」
「まっさかあ。だいたい新城さんとは、ほとんど口も利いた事ないし。そもそも僕はもてないよ」
なおちゃんはため息をついた。
「本当にれいちゃんは昔から鈍いね」
なんだよ? 鈍いって?
その時、なおちゃんのスマホからアラームが流れた。
「れいちゃん。そろそろ時間だよ」
「え? まだ刑事さんが来るには早い……」
「そうじゃなくて、GPSが電波を出す時間」
「ああ、そうか」
僕たちは車に戻った。
だが……
「あれ? れいちゃん。GPSはドリンクホルダーにあったよね?」
「ああ」
ドリンクホルダーには何もなかった。
「どこかにしまったの?」
「いや、触ってもいない」
とにかく、ドリンクホルダーにないとなると……
運転席と助手席の上、足元、ドアポケット。
思いつく所はすべて探したが、GPSは見つからない。
「れいちゃん。残り一分切ったよ」
「しょうがない」
僕はポケットからGPS発見機を出した。
「もう、電波で探すしかないな」
「でも、電波が出ちゃったら、富和って人が来ちゃうんじゃないの」
「そうだけど、五十嵐刑事も来てくれる。富和さんが来たら、その場で逮捕してもらえばいいよ」
電波が出る時間になったのはその時。
しかし……
「反応がない?」
GPS発見機は、まったく反応しなかった。
馬鹿な? もう電波が出ているはずだぞ。
「れいちゃん。見つからないの?」
「ああ」
「車の下は?」
「見てみる」
姿勢を低くして、コペンの下にGPS発見機を差し込んでみた。
やはり反応はない。
その時、僕の背後で車のエンジン音が近づいてくるのが分かった。
エンジン音は通り過ぎるかと思っていたら、すぐ後で停止する。
まさか! もう富和が来たのか?




