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先輩の車が到着したのは、それから五分後。
初心者マークの付いた赤いヤリスが僕のコペンの正面で停まり、助手席から佐伯先輩が降りてきた。
「ちょっと、待っていてくれ」
ヤリスの運転手は先輩に誘導されながら、危なっかしい運転でコペンの横に駐める。
「彼女、昨日免許取ったばかりでな、俺の車で練習させてくれって頼まれて仕方なく運転させてやったんだ」
「ああ……そうですか」
そんな事を言っているけど、僕には分かる。
先輩は絶対に『運転させて』なんて頼まれてなんかいない。
可愛い女の子が免許を取ったという話を聞き付けて『俺の車で練習させてやるよ』とか言ってナンパでもしたのだろう。
まあ、それは良いとして……
「先輩、新車を買っていたのですか?」
「え? ああ……おまえに売ってやったコペンの代金を頭金にな」
「ふうん」
この人は、この前僕に言った事と矛盾している事に気が付いていないようだな。
コペンを売った金は、奥さんに没収されたと言っていた事を完全に忘れているようだ。
やはりやましい事があるので、とっさに適当な嘘をついたのだろう。
ヤリスの運転席が開いて、先輩の彼女が降りてきた。
「あら?」
運転席から降りてきた若い女は、僕の顔を見て驚いたような表情をする。
「高城さんじゃないですか?」
ん? よく見ると、隣の部署に配属された新人の新城さん。
佐伯先輩、さっそく手を出したのか。
「こんばんは。新城さん」
しかし、彼女はなんだかオドオドしているな。
そうか。先輩とデートした事を、職場で言いふらされないか心配しているのだな。
まあ、言いふらすつもりなんてないが……
「令斗。おまえもデート中だったのか。可愛い子連れてるな」
僕の横に立っているなおちゃんを見る先輩の目が、スケベ色に染まっているのがわかった。
まったく、どんだけ女好きなんだよ。
「デートじゃありませんよ。昼も話したけど従姉妹ですよ」
「こんばんは」
なおちゃんが先輩に挨拶する。
「ああ、じゃあ君が元旦那にストーカーされているという……でも、そいつ死んだそうじゃないか」
なおちゃんは苦笑しながら答えた。
「そうなのですけど……そのお父さんが、殺したのは私だと疑って、包丁を持って家を出たと……」
「マジかよ!? こええな。え? ひょっとして、令斗。それで従姉妹連れて逃げていたのか?」
「そんなところです。それより、先輩。刑事さんの名刺は?」
「ああ、これだが」
先輩の出した名刺を見たが……あれ?
「あの……これ先輩の名刺ですよ?」
「ああ、すまん。間違えた、こっちだ」
こんどは間違いなく、五十嵐刑事の名刺。
名刺の裏表をスマホで撮影すると、僕はそれを先輩に返した。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。それで、従姉妹さんの元旦那を殺した犯人は誰なんだ?」
「その事ですけど……」
僕は新城さんの方へ目をやった。
新城さんは物珍しそうに、僕のコペンの中を覗き込んでいる。
「高城さん。これって高城さんの車ですか?」
「ああ、そうですよ」
「俺が格安で譲ってやったのだよ」
横から佐伯先輩が口を挟む。
「これってオープンカーですよね。屋根、上げてもらっていいですか?」
オープンカーに憧れでもあるのかな?
それにしても、相変わらずオドオドしているな。
「いいですよ」
屋根の開閉はリモコンではできないので、僕は運転席へ回り込んで開閉スイッチを入れた。
屋根がゆっくりと開いていく。
「わあ! 凄い。ねえ乗ってもいいですか?」
「いいですけど、運転はしないでくださいね」
「もちろんです。高城さんの大切な車を傷つけたら大変だし」
新城さんは運転席に乗り込んだ。
その耳元にさっと囁く。
「大丈夫ですよ。今夜の事は誰にも言いませんから」
「え?」
「職場で知られたくないのでしょ。佐伯さんとデートしていたこと」
「え? あ! そうなんですよ。アハハ」
まだ笑いが引きつっているな。
新城さんをコペンに残して、僕は佐伯先輩のところへ行った。
「令斗。俺の彼女取るなよ」
「取りませんよ。それより、今から話すことを新城さんに聞かせない方がいいと思いましてね」
「なんだ?」
「先輩。健吾って誰か知っていますか?」
先輩の顔が途端に引きつった。




