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あせって駐車券を探していると、助手席からなおちゃんが叫んだ。
「れいちゃん! ドリンクホルダーよ!」
「え? 何が」
「だから駐車券! そこよ!」
あ! そうだった。さっき駐車場に入ったとき、ポケットじゃなくてドリンクホルダーに駐車券を置いていた。
精算機が駐車券を吸い込んだ時に振り向くと、カムリが動き出すのが見える。
「はい。パスモ」
「ありがとう」
精算機がパスモを読み込む時間が、ひどく長く感じた。
読み込みが終わり、バーが上がり始める。
バックミラーを見ると、白いカムリがこっちへ方向を変えてくるのが目に入った。
バーが上がり切らないうちに、僕はアクセルを踏み込む。
踏み込んだところで、すぐにブレーキ。
駐車場出口で、立ち止まってスマホを操作している男がいたのだ。
クラクションを鳴らすと、男は不満そうな顔で横にどく。
「危ねえな!」
通り過ぎるとき、男がそんな事を言っていたのが耳に入った。
かまわず、僕はアクセルを踏み込む。
しばらく走ったところでバックミラーを見ると、カムリが出口のバーを吹っ飛ばして出てくるのが目に入った。
「嘘だろ!」
「どうしたの?」
「あいつ、出口のバーをへし折って出てきた」
「ええ!」
とにかく、このまま真っ直ぐに走っていたら、次の信号で追いつかれる。
僕は路地に逃げ込んだ。
こっちは軽自動車。狭い道の方が有利だ。
狭い住宅街の道路を走ってるうちに、いつの間にかカムリの姿は見えなくなった。
あきらめたのかな?
「れいちゃん。あの女、知っている人なの?」
「いや、会うのは初めてだよ」
「そう」
それからしばらく、なおちゃんは黙り込んで僕があの女と何を話していたかを聞いていた。
なおちゃんが口を開いたのは、信号待ちのとき。
「れいちゃんの事を健吾という人だと、あの人は思っていたみたいね」
「ああ。顔が似ていたのかな?」
「ううん。あの人は、顔なんか見ていなかったと思う」
「え? なんで」
「たぶん、顔を見ても分からないのよ」
「どういう事?」
「さっき私がこの車の屋根を開いたでしょ。あの時私の顔が見えているはずなのに、私を女と認識できなかった。だけど、声を聞いて女が車に乗っていると認識して激怒していたわね」
「ああ。彼女は目が悪いのかな?」
するとなおちゃんは首を横に振った。
「たぶんあの人は、顔で人が誰であるかを識別できないのよ。性別も顔では識別できない。だから、私の声を聞くまでは私が女と分からなかった」
そんな事ってあるのかな?
「だからあの女は、健吾という人をこの車と結びつけてしか認識できなかったのよ。つまり、あの人にとっては、この車の持ち主=健吾なのよ」
「それって、何かの障害なの?」
「うん。相貌失認と言ってね、人の顔を識別できない障害があるのよ。あの女はたぶんそれよ」




