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トナラー  作者: 津嶋朋靖


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 この女、かなりあぶないぞ。


 僕は、そろりと後退りしながら話を続けた。


「あの……僕の車を守ってくれた事には、感謝いたします。ありがとうございました」


 人を一人殺しているような奴だ。下手に刺激すると、何をするか分かったものじゃない。


 ここは機嫌をとっておかないと……


「どういたしまして」

「でも、僕は健吾さんという人ではありません」

「え? 何を言っているのですか?」

「たぶん暗いから、間違えたのでしょう」


 僕はスマホのライトを顔に向けた。


「ほら。人違いでしょ」


 え? この女、なんで僕から目を反らして後ろを向くのだ?


 いや、僕から目を反らしたわけじゃない。


 背後にあるコペンを見つめているのだ。


 続いて女は、スマホを取り出した。


 しばらくスマホを操作してから、女は僕の方へ振り向く。


「何を言ってるのです。やっぱり、健吾さんじゃないですか」

「だから、違うって言ってるでしょ」

「なぜ、そんな嘘をつくのです?」

「嘘じゃありません。顔を見れば分かるでしょ」

「分かりません」


 ええ? なんでだよ? 顔を見れば、別人って分かるだろう!


 女は僕にスマホを突きつけた。


 画面にはマップが表示されている。


 マップに表示されているのは、この駐車場付近。


 マップの一カ所で光が点滅していた。


 女はスマホを操作してマップを拡大する。


 光が点滅しているのは、僕のコペンが止まっている場所。


 たぶんこれは、GPSのアプリなのだろう。


 GPS発信機の位置を表示しているのだな。


「見ての通り、この車は健吾さんの車です。だからあなたは、健吾さんです」


 なんで車で判断するんだよ? 顔で判断してよ!


 ていうか、佐伯先輩……とんでもない車を押しつけてくれたな!


 おそらく『健吾』は、先輩の下の名前なのだろう。


「落ち着いて聞いて下さい。確かにこの車は、健吾さんという人の車だったのでしょう。でも、その人は二ヶ月前に車を手放したのです。僕はその車を買った別人です」

「なんで、そんな嘘をつくのです?」


 だから、嘘じゃないって……


「何か、都合の悪いことでもあるのですか?」

「だから、都合も何も、僕は人違いです」

「この期に及んで、まだ嘘を言いますか」


 だれか助けてくれ……ん?


 コペンの電動ルーフが動きだした。


 なおちゃん、電動ルーフを操作したのか? なんのつもりだ?


 二十秒ほどで、コペンの屋根は完全に折りたたまれてオープンカーになる。


 いつの間にか運転席の方へ移動していたなおちゃんが、手招きして助手席を指差している。


 助手席に乗り込めって事か。


 しかし、なおちゃんは、免許なんか持っていたっけ?


「さては……車の中に、女がいるのですね?」


 え? ヤバい! 今、振り向かれたら、なおちゃんの姿が丸見え!

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