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違う。白い車だが、これはカムリじゃない。
トヨタプリウスが、バックで隣の枠に入ってきているのだ。
て言うか、こいつなんなんだよ?
この駐車場もかなり広いのに、車は数台しか停まっていない。
停める場所なんか他にいくらでもあるのに、なんでわざわざ僕の横に停める?
まさか? カムリの運転手が車を変えたのか?
前席の様子が見えたが、乗っているのは老夫婦のようだ。
よっぽど運転が下手なのか、何度も入れ直している。
少なくとも、車をぶつけることなくギリギリに停められるカムリの運転手はかなり運転が上手い。
こいつは絶対に違う。
僕はエンジンをかけた。
「れいちゃん、もう逃げるの?」
「いや。場所を変えるだけだよ。ぶつけられたらかなわん」
「なんでこの人、離れたところに停めないの?」
「さあ?」
僕はコペンを発進させると、左側に六つ離れた駐車枠に停め直した。
だが……
「なんで追いかけて来るのよ!」
プリウスは僕を追いかけてきて、また隣に停めようとした。
「なおちゃん! まさかこいつ、吉部の親父?」
「ん? 違う。吉部パパじゃない。それに、助手席に奥さんを乗せてるけど、吉部ママは家に残っているはずだし」
ならば、こいつが僕を追う理由はないはず。
僕は再びコペンを走らせ、別の駐車枠に入れた。
だが、プリウスはまた僕を追ってきて隣に停めようとする。
そして僕が逃げて別の枠に停める。
そんな事が五回続き、六回目で僕は切れた。
「いい加減にして下さい!」
コペンを停めると僕は車から出て、追ってきたプリウスの運転手を怒鳴りつけた。
すると運転手のじいさんは、キョトンとした顔をして窓を開く。
「あんた。なんで逃げるんだ?」
「なんで追いかけてくるんですか!」
「いや、あんたが逃げるから……」
「あんたが僕の隣に停めるからですよ!」
「隣に停めたらだめなのか?」
僕は周囲を指差した。
「停める場所なんていくらでもあるでしょ! 離れた場所に停めて下さい!」
「いや、わしはこの暗さだと白線が見えなくて、先に停まっている車を目安に停めたいのだが……」
だったら、夜中に運転すんなよ。
「他の車にして下さい。僕の車は迷惑です」
すると、助手席の老婦人が口を出してきた。
「ごめんなさいね。私がお願いしたの。あなたの車が可愛らしいから『あの隣に停めて』って」
頭が痛い。
ん?
なおちゃんが、運転手の老人にスマホを差し出した。
「これを見てください。私達、ここ数日この白い車にこんな停め方されて迷惑していたんです。警察にも相談しているのですけど」
あ! よく見ると、なおちゃんが持っているの、車に残してきた僕のスマホ。
トナラーの写真を見せているのか。
「ん? こりゃ酷い停め方だな。これじゃあ運転手が乗り込めない。大丈夫だ。わしはこんな下手くそな運転はしないよ」
いや、あんた十分運転下手くそだろう。
「そんな事言って、本当はこの運転手はあなたじゃないの?」
「違う! 車が違うだろ」
「この車はレンタカーです。これを返して、別の車に乗ってきたのじゃないのですか?」
「いや、違う。あんたの隣に停めるのは初めてだ」
「じゃあ、なんでこんなにしつこく追いかけてくるのですか? 警察に調べてもらおうかしら」
「わ……分かった。他のところへ停める」
そう言ってプリウスは去って行った。
「今のは、ただのトナラーだったようね」
「ああ」
時計を見ると、かなりの時間を浪費している事が分かった。
「場所を移動しよう。ここにはもうすぐ、あのカムリが来る」
「うん」
カーナビを駅前駐車場にセットして、僕はコペンを走らせた。




