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櫻坂学園物語  作者: ヒトミ
第一章[琉生×和人]

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19/20

衝動

和人は風呂に入りながらも、琉生の言葉に頭を悩ませていた。


『和人を見ることができる場所』

『テスト週間中は見ても居ない』


和人が居ない時でも琉生はその場所に行くらしい。


なぜそこまでして和人を見ているのか。


今までそんなに見られていたのか。


場所を考えていると、場所ではなく見られていた理由に意識が向いてしまい、まともに考えることができなくなってしまう。


落ち着かなくなり、シャワーを冷水に切り替え、浴び続けた。


いい加減、体が冷え切った時、和人はやっと機械的に風呂場から出た。


髪をタオルで拭きながら、共有スペースまで歩く。


薄暗い部屋。琉生が居ないソファ。


琉生に髪を乾かして貰うことが日常になっていたから、乾かして貰わない日が増えて、心が(きし)んだ。


乾ききらない髪を持て余しながら部屋に戻る。


机に向かって問題集を開く。


いつもならイヤホンで琉生のピアノを聴きながら勉強するのに、ピアノのことを思い浮かべただけで、彼のことを意識してしまい、全く集中できない。


無意識にシャーペンの芯を繰り出していたらしく、ノートに文字を書こうとして、先端が折れる。


これは駄目だと和人はため息をついた。


諦めて寝台に移動して寝転がる。


寝てしまおうと目を閉じても、結局寝入ることができなかった。


そうこうしている内に、和人は寝不足のままテストに臨むことになってしまった。


◆◆◆


テスト明け。


和人は掲示板でテスト順位を確認して、がくりと肩を落としていた。


琉生はいつもと変わらず一位だというのに。


自分だけが彼のことを考えて、ありえないミスを連発してしまった。


なんだか寂寞感(せきばくかん)が湧き上がり俯く。


すると、背後から元気な涼太の声が聞こえてきた。


「どうしたん!? 珍しく上位に入れなくて落ち込んでんの? パーッとバスケでもする?」


明るい声に釣られてゆっくりと背後を振り返る。


太陽のような笑顔がそこにあった。


明日から夏休みだと浮かれているのだろう。


その笑顔に誘われるように和人は頷いた。


◆◆◆


古林(こばやし)先輩。待ってました。勝負して下さい」


寮の多目的室にやってきた和人と涼太を出迎えたのは、耳にジャラジャラとピアスを付けた一年生だった。


短い黒髪に金色のメッシュがひと房。


着崩したワイシャツ。


見るからに素行が良くなさそうなのに、それを裏切る敬語。


どんな関係だと涼太を見ると、彼は和人に申し訳なさそうな表情で、手刀を切る仕草をした。


足を踏みならしたり、後輩が持っているボールを見てソワソワしだす。


涼太の方も彼と勝負がしたいらしい。


「待ってるから、やってくればいい」

「……マジ? ごめん和人! これは譲れない戦いだから!」


涼太はネクタイを緩めて、豪快にブレザーを脱ぐ。


和人が手を差し出すと礼を言ってブレザーを投げ渡し、そのまま後輩の元に走り寄って行った。


手持ち無沙汰になり、多目的室の壁に寄りかかる。


二人の試合を眺めながら、和人の思考は琉生のことへと流れていく。


──もう今日までなのに、琉生があの日どこにいたのか、正解らしい場所が分からなかったな……。


分からない罪悪感に押し潰されそうになる。


目を閉じ唇を噛み締めた。


後輩と涼太の楽しげな声。ボールの跳ねる音。他の生徒達の騒めき。


外からの微かなピアノの音色……。


この音、情熱的なのに切なげな。聴きなれた琉生の。


……やっぱり好きだな。


()に落ちた。理屈ではなく、衝動。


和人はそれに突き動かされ、一目散に走り出す。


寮の音楽室。多目的室から中庭を挟んで向かい側にある部屋。その場所に向かって。

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