夏休みまで
琉生の気持ちをしっかり確認しよう。
決意した時にはすでに放課後だった。
和人は養護教諭に雑な感じで心配されて送り出された後、寮まで帰ってきた。
そして、琉生の部屋の前でしばらく躊躇し、意を決して扉をノックした。
「……来るとは思わなかった。勇気あるね」
琉生が部屋から出てきて、扉の前に寄りかかって腕を組んだ。
上目遣いで和人を見てきて、その視線の暗さに息を呑む。
「部屋を訪ねるのに、勇気は必要ないだろ」
琉生が低く笑った。
「俺にあんなことされたのに、怖くないんだ?」
「琉生だったからな。他の奴なら遠慮なく風紀室に連行していた」
「俺を連行しないのは何で?」
そんなの、嫌じゃなかったからに決まっている。
琉生の質問に脳内で答えた後、自身の答えに和人は目を見開いた。
みるみる目元が熱くなり、琉生から顔を逸らした。
「琉生こそ、俺にあんなことをしたのはなぜなんだ?」
「さあ、何でだと思う?」
淡々とした声音に、逸らしていた顔を琉生に向け直した。
彼は少し細めた目で和人を見ていた。
──それを俺に言わせるのか?
和人が目を泳がせると、琉生がため息をついて口を開いた。
「……俺が昨日どこにいたのか、当てられたら教えてあげるよ」
和人は返答に窮した。
正解できる自信が無いということもあるが、急にそんな質問をされて焦れたせいでもある。
和人は早く琉生の気持ちを知りたかったからだ。
そうでないと、自身の感情にも名前を付けることができない。
「場所を当てることが、そんなに重要なことなのか?」
「重要だよ。俺にとっては。とても」
強い眼差しで見つめられ、和人は渋々頷いた。
琉生が行きそうな場所は何ヶ所か思い浮かぶが、確実にここだという場所は分からない。
和人は眉を寄せて口を開く。
「……すまん。考える時間をくれないか?」
「いいよ。期間は夏休み前日まで。存分に考えてね」
琉生は和人が猶予を欲しがることを分かっていたと言うように頷き、二週間の時間をくれた。
「でも、何のヒントもなかったら、和人には分からないかもしれないよね。だからこれだけ教えてあげる」
琉生は部屋の扉を開けながら、和人に振り向く。
「俺がいたのは、和人を見ることができる場所だよ。まあ、テスト週間中は見ても居ないんだけどね」
そう言い残して琉生は部屋の中へと姿を消した。
抽象的過ぎるヒントに、和人は唖然として天井を仰ぎ見た。




