思い出
沢山の大人に囲まれカメラを向けられる。
近くには滑り台やブランコ、ジャングルジム。
他にも多くの遊具があるのに、この格好だと遊べない。
和人は自分の服装を見下ろしてため息をついた。
しばらくすると休憩時間になって、大人たちが和人の傍から離れた。
それでも和人は、ジャングルジムに向かって走り出しはしない。
つば広の帽子が飛んで行ってしまうかもしれないし、ヒラヒラした服が破れてしまうかもしれないから。
近くのベンチに座って、地面につかない足を揺らす。
その時、強めの風が吹いた。
咄嗟に頭を押さえたのに、帽子は和人の手をすり抜け空に舞い上がってしまう。
慌ててベンチから飛び降りて、帽子の行方を追うと、和人の身長程の塀の上から飛び出している枝に引っかかった。
手を伸ばしても届かない。
ちょっと飛び跳ねても駄目だった。
飛び跳ねる時にワンピースの裾が広がって、やっぱり動きにくいと口を尖らせた。
それでも帽子を放っておく考えは浮かばない。
目の前の塀を見つめる。
よじ登れば取れるかも。
だけど、そんなことをしたら服が汚れてしまう。
何とか塀を登れないかと周囲を見回した。
塀の近くに運動場を囲うフェンスがあるのを見つけて、和人はそこまで移動してフェンスから塀の上に移動した。
塀の上は結構広かった。
和人は危なげなく移動して木の枝まで辿り着く。
そして、帽子を手に取った途端。
「女の子が塀の上に!」
「危ないっ」
悲鳴のような騒めきが周りから聞こえ、いつの間にか遠巻きに見られていたことに気づいた。
その騒ぎを聞きつけたのか、両親を含めた大人たちが慌てた様子で走ってくるのが見えた。
帽子を被り直して、塀の上に座る。
塀に両手を突いて、勢い良く飛び降りた瞬間。
視界の端に、目を丸くして和人を見上げている男の子の姿が見えた。
地面に着地し、ふわりと浮き上がった服の裾を丁寧に払う。
顔を上げると、茶色い目を輝かせてこちらを見ている男の子がいた。
茶色い髪と茶色い目の男の子。
その子の口が動いて「……かっこいい」そう言われた。
和人は何だか気分が高揚して、褒めてくれたその子と仲良くなりたい衝動が湧き上がった。
幼稚園で見覚えがある子で、その子の名前が海縁琉生だと言うことも、知っていた。
両親や大人たちに叱られながら、和人は幼稚園で琉生に話しかけようと心に決めた。
◆◆◆
──夢か。
ぼんやりと意識が浮上し、和人は目覚めた。
あれは琉生は知らないだろう、出会いの記憶だ。
和人だけが大切に覚えている最初の思い出。
──琉生のピアノを世間に広めたいのは、俺の欲。だけど、本当に、究極、琉生が嫌なら、諦めてもいい。諦めたくはないけど。
琉生は、和人が彼を見ていないと泣いた。
──こんなに俺はお前を見ているのに。なんでだろうな。
無意識に自身の唇をなぞる。
親友はこんなことしない。だったら、琉生が和人に向けてきている感情は……?
一瞬、脳裏を過ぎりかけた単語に赤面する。
──いや、まだ直接聞いた訳じゃない。それに、本当にそんな感情を向けられていたら、俺はどうしたらいいんだ……。
和人は片手で顔を覆い沈黙した。




