消えない痕
窓から射し込む朝日で目が覚めた。
和人はシーツを被ったまま上体を起こし、ピタリと動きを止める。
複雑怪奇な感情と同時に、琉生への謝罪ができていないことを思い出したのだ。
先ずは謝らなくてはと、最低限の身だしなみを整え部屋を出る。
共用スペースに琉生の姿は見えない。
部屋にも気配はなく、もしかしたら昨夜から部屋に戻ってきていないのかも知れなかった。
──謝らせても、くれないのか……。
不自然に痛んだ胸元を掴み、唇を噛み締めた。
◆◆◆
落ち込みながら登校すると、琉生は親衛隊に囲まれて普段通り教室にいた。
琉生が彼らに微笑みかけている姿を見て、なぜか鼓動が早くなる。
視線が合うわけでもないのに、見つめ続けることができず、気まずくなりながら席に着いた。
授業が始まる時も琉生のことを考えては、早くなる鼓動に翻弄されていた。
雅がしばらく欠席するという教師の言葉を聞くまで、彼が居ないことに気づかない位だった。
授業にも中々集中できず、昨日の琉生を思い出しては罪悪感に駆られる。
それと同時に、指先へと触れてきた彼の唇や、引き寄せられた瞬間の体温を思い出して目元が熱くなった。
「なんか和人ぼんやりしてる? 顔も赤い気するし……風邪?」
いつの間に休み時間になっていたのか、涼太が前の席から和人を覗き込んでいた。
「なあ、涼太。家族のような人に、自分を誰かに取られたくないって言われたら、どう感じる?」
「え、何それ……恐怖じゃん」
「怖いのか? なんで?」
「……和人は怖くないの? てか、なんでこんな質問されてんの俺」
イスの背に抱きつくように座っている涼太が、困惑げな表情をして、足を揺らしている。
──ならこの動悸は、琉生に対する恐怖心からくるものか?
両手で顔を覆った。
──違うだろう。なら、この感情は何なんだ?
「おーい、どうした。本気で具合悪い? 保健室行く?」
両手の間から見える机に影が射す。
肩に人の手の温もりを感じた。
「古林。俺が保健室連れて行くから、先生に伝えといてくれるかな」
頭上から降ってきた琉生の声。
びくりと体が震え、反射的に手を振り払う。
振り払った瞬間、息を呑むような気配を感じ、その直後手首を掴まれ、立ち上がらされた。
「離せ!」
「……嫌だ。保健室、行くよ」
引き摺るように引っ張られる。声を詰まらせ琉生を見た。後ろからだと表情が見えない。
掴まれた手首が熱くて、和人は唇を噛み締めた。
◆◆◆
無視を決め込むつもりだったのに。
琉生は前方の席で親密な会話をしている和人と古林に視線を向け、拳を握り締めた。
昨日はどうして追いかけてくれなかったのか。
今日はなぜ、不自然に視線を逸らすのか。
彼が古林に──あんな表情を向けるだなんて。
気づけば足を踏み出して、和人の肩に手を伸ばし二人の間に入り込んでいた。
肩に触れた瞬間、強い力で手を振り払われ、ふっと意識が冷えた。
──拒まれるくらいなら、和人の心に消えない痕を残してしまおう。
抵抗する彼を引き摺り、琉生は保健室へと向かった。




