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第二二七話 本土上陸! 一 シュトラールヴィント



 ドモ、昨年末は何かと忙しかった斎藤花です。

 クルトくんの村を出発した私たち一行は順調にルヤナ島を突っ切り、翌日の午後三時前には、島の南西部に位置する港町へと到着した。

 そこまでの道中、絡んできたゴロツキどもを火野さんがボコり、そいつらにムーちゃんがトラウマを植え付けたくらいで、特にこれといったイベントは発生しなかったよ。

 あのゴロツキども、これからは夜ごと悪夢にうなされることだろうね……。ともかく、この港町の対岸に渡れば、いよいよ、真綾ちゃんのいる帝国本土だっ!


「花、えらい気合い入っとるとこ悪いけどな、そろそろ降りたらどや? さすがに町ん中でコレは恥ずいわ」

「ああ、うん、そうだね……」


 火野さんに言われて、私はそそくさと大二郎から降りた。

 いやあ、ここまで三人が一時間ごとに交代しながら大二郎に乗って来て、ちょうど今は私の番だったんだけどね、さすがにさ、ホラ、私みたいにオトナなレディが乳母車っぽいのに乗ってると目立つじゃん? そのせいで、人目の多い町に入ってからというもの、私はかなり衆目を集めてたみたいなんだよね。

 考えごとしてたから気が回らなかったよ、恥ずかしいな……。


「収納っと。――どれ、とりあえず港のほうへ行ってみる?」

「せやな」

「……うん……」


 ここまでお世話になった大二郎を【船内空間】へ収納後、私がふたりに提案すると、火野さんはニカッと笑い、ムーちゃんも薄ら笑いを浮かべて賛成してくれたので、私たち三人はこの町の港へと真っすぐ向かった。

 ってなわけで、じきに港へ着いてみれば、そこには、ずんぐりとした船体に一本マストを立てた商船や、クルトくんの村で使われていたような漁船なんかが、帆を畳んだ状態で何隻も停泊しており、また、帆を張って出港して行く船やこれから入港して来る船が行き交ってもいた。

 帝国本土からの玄関口ということで、この港は私の予想以上に賑わっているらしい。


「おお~、港じゃん。コッチの港町って初めて見たよ~」

「ああ、花が前に旅したんは海の無いとこやってんな?」


 そう、火野さんのおっしゃるとおり、前回は内陸部に転移したおかげで川港くらいしか見らんなかったからね、こうやって異世界の港町を見ることができて、私、すごく感慨深いよ。

 転移先を変えてくれたスヴェントヴィト神には感謝すべきかな、勾玉で位置情報を調べたら真綾ちゃんも北部低地公領に来てるみたいだし。


「そうなんだよ、だからなんか新鮮でさ。――おお~、クラウスの船もそうだったけど、やっぱりまだコグが主流なんだ。この世界じゃ鏡の海(シュピーゲル・ゼー)のせいで遠洋航海って概念が無いから、ガレオンどころかキャラベルもキャラックも発明されてないんだろうな~」

「ちっこい港町にしてはにんぎゃかやなあ、ウチ、この感じ好っきゃで」

「……私としては……もっと寂れた港町のほうが、雰囲気あって……いいのだけど。……インスマスのように……」


 ズラッと並んだ帆船を見て喜んでいる私の横で、大阪育ちの火野さんとオカルト少女のムーちゃんも、港の賑わいを見て彼女たちらしい反応をそれぞれ示している。……ムーちゃんの期待するような港町じゃなくてよかったよ。


「なあ花、まだまだ明るいし、今日は向こう側の町まで行って泊まるんやろ? ほな、渡し船みたいなん探そか?」

「そうだね、たしかに時間もまだあるし、本土側のシュトラールヴィントはここよりうんと大きい港湾都市らしいから、このまま対岸に渡ってアッチにある高級宿で泊ったほうが快適だと思う」


 昨日泊まった小さな町の宿はいろいろとアレだったからね、火野さんからの問いと提案のうち問いのほうに対する私の答えは、もちろんイエスだ。

 でもね……。


「だが、船は断る!」

「うわ! なんやいきなり!?」


 目を閉じて腕を組みつつ頷いていた私が突然クワッと目を開き、船を探すとの提案を力強く断ったもんだから、ノリのいい火野さんは大げさに驚いた。


「……いや、村長さんの船に乗せてもらって懲りたんだよね、せめて宮島のフェリークラスの船じゃないとさ、きっと私、また船酔いして、襲われたナマコみたいに内臓まで吐き出しちゃうよ……」

「……私も……船は……ちょっと……」


 ……そう、あんな思いをするのは二度とゴメンなんだよ。

 私がゲンナリ顔で説明していると、同じく船酔いしやすいムーちゃんも、ただでさえ悪い顔色をさらに悪くして加わってきた。

 彼女は私と違って吐き戻せないぶん、それはそれで苦しいのだろう。


「難儀やなあ……。ほな、ウチが運ぼか?」

「うーん、一日に合計三十分って使用制限があるから、火野さんの能力は温存しときたいとこだけど……まあ、このくらいの距離なら問題ないか。――よし、火野さん、お願いしちゃってもいいかな?」

「任しとき!」


 憐れみの視線を私とムーちゃんに向けつつも気前よく提案してくれた火野さんは、私がちょっと考えてからお願いすると、グッとサムズアップして白い歯を見せた。

 相変わらず男前というか陽キャというか、アンタの屈託ないその笑顔、私の目には眩しすぎるよ。


      ◇      ◇      ◇


 ルヤナ島と帝国本土を隔てる海峡は狭く、私たちのいた港町から対岸の港湾都市シュトラールヴィントまで、直線距離で二キロメートルちょっとくらいしかないだろう。

 その海峡の上空を小さな黒雲がひとつ、他の雲とは違う不自然な方向に流れていた。

 黒雲の上には、両腕組んで仁王立ちしている火野さんと、その左右で座り込んでいる私とムーちゃんの姿が――。


「火野さん、落とさないでね! 絶対に落とさないでね!」

「よっしゃ、フリやな」

「違うよっ!」


 カモシカのごとき足にしがみついたまま私がお願いすると、火野さんめ、いたずらっぽくニヤリと笑いやがった。

 コレだから関西人は……あ、説明するね。

 実は、鵺から火野さんが貰った加護のひとつに【黒雲生成】ってのがあるんだけど、鵺の黒雲がただの雲であるはずはなく、非科学的なことに、彼女の生成した黒雲は人を乗せて空を飛ぶことができるんだよ。

 で、私たちはその黒雲に乗って海峡を越えることにしたというわけだ。

 思えば、ハーピー、グライフ、ヒポグライフと、いろんな幻想生物の背中に乗せてもらったり鷲掴みされたりして、この異世界の空を幾度も飛んだことのある私だけど、さすがに今回ばかりはさ、雲の上に人が乗れるってことにどーしても納得できないもんだから、スカッと雲を突き抜けて落ちはしないかと不安でしょうがないんだよね。

 それから、その不安の他にもうひとつ、困ってることが……。


「私のことは落とさなくていいから、スピードのほうを落としてよ! か、風が!」

「えー、まだ遅うするん? ウチ、このくらいが気持ちええけどなあ」


 ……そう、火野さんも黒雲の飛行速度を抑えてくれてはいるんだけどさ、それでもまあまあ速く飛んでるもんだから、当然のごとく、私たちは正面からマトモに強風を受け続ける状態になっていて、その強風に三人ともマントのフードを後ろに剥ぎ取られて、髪がえらいことになってるんだよ。強風でオールバックだよ。

 それに真冬の空を飛んでいるってことは、風が強いなんて言う以前に、本来なら寒さのほうも尋常じゃないはずだ。コレ、加護で守られてなかったら、三人仲良く凍ってたんじゃないかなあ……。


「……花ちゃん……私たち、今、……未確認飛行物体……だね……」


 ムーちゃん、そんなキラッキラした目でコッチ見ないでいいから……。

 ってな感じで私がガクブルしている間にも、火野さんの黒雲は海峡をもう越えてしまったらしい。


「もう着いたで、どのへんに降りよか?」

「そうだねぇ、入市待ちの行列に並ぶのもメンドくさいし、このまま市壁の内側に降りたいけど、市内でも人目につかなそうな場所でお願い」


 人間を乗せた雲なんて非常識なモンが、賑わってるマルクト広場のド真ん中にでも着陸してごらんよ、まず間違いなく大騒ぎになってしまうからね、私は火野さんに当然の指示を出したんだけど――。


「よっしゃ!」

「え? ちょっ――ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 ――心の準備などする間もなく、せっかちな関西人が一気に急降下し始めたもんだから、彼女の足にしがみついて絶叫する私であった。


      ◇      ◇      ◇


 都市内でも特に薄暗くひっそりとした路地裏の小広場みたいなところに着陸すると、役目を終えた黒雲はポワワンと霧散していった。

 とはいえ、貴族が守護者やその眷属を召喚するのと違い、黒雲はリキャストタイム無しにいつでも再生成できるらしいから、ただの移動手段としてだけじゃなく非常時の逃走手段としてもたいへん心強い。

 でもね、心強いとか言ってる余裕なんか、今の私にゃ皆無なんだよ……。


「……ハア、ハア、……死ぬかと思ったよ……」

「どや花、絶叫マシンみたいやったやろ? こんなんユ◯バにも無いで」

「どやじゃないよ! 寿命が三年くらい縮んだよ!」


 大地のありがたみを実感しつつ肩で息をしてたら、人の気も知らず、火野さんが文字どおりドヤ顔で言うもんだから、私は猛抗議してやった。……彼女の足にしがみついてへたり込んだままだけど。


「ごめんゴメン、堪忍な。ちびってもたか?」

「誰が――あ、…………ち、ちびってないからねっ!」


 などと、火野さんと私がコントじみた会話をしていると――。


「こいつぁいいや。アルラウネを引き抜いたみてぇな声がしたから来てみりゃあ、ちょうど良さそうな獲物が三匹もいたぜ」

「アニキ、コイツら三人とも高そうな靴を履いてやがりますぜ」

「羽振りのいい商会の奉公人が迷い込んで来たってとこでしょうが、タンマリ持ってやがるに違いありませんぜ」

「へっへっへ、ラタトスクじみたガキがひとりいるものの、とりあえず三人とも若い娘だ、身ぐるみひん剥いたあとはコイツら自身も売り払っちまいましょう」


 ――などと嬉しそうに言いながら、この上なく人相の悪いゴロツキ四人組がゾロゾロとやって来て、私たちを包囲したんだよ。

 うーん、私たち三人とも顔丸出しの状態だし、マントの下のタクティカルブーツも丸見えだからなー、お金を持ってそうな乙女三人組、つまり、いいカモだと思われたか。

 来たね、お約束イベントが……。



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