棚の中のガラクタ
私は”ガラクタ”を、店の棚に飾ることにした。日中は、店長から店を任せられているので、こんな権限も持っているのだ。エッヘン!!話は変わって、なぜ飾ろうと思ったかと言えばこんな出来事があったからだ。
カランッ
『いらっしゃいませ。』
『こんにちは、ホットコーヒー1つお願いできますか?』
『はい!かしこまりました。』
そのお客は、モノクルをつけていて、仕立ての良さそうなスーツを着た中世の貴族を思わせる男だった。 なぜだろうか、その客はやけに積極的に話しかけてきていた。そして、妙に話しやすく、天気や、店の向かいにあるお洒落な花屋などの話をしてるうちに、店の話題になった。
それから、この店の歴史とか、わたしが店を任されていること、話ははずみ、あの老紳士の話にもなった。
『へぇ、その御老人は君に様々なものをくれんだね。どんなものをくれるんだい。』
『それがぁ、ん〜、こんなこと言うのは良くないんでしょうけど、あまり良さげなものでもないですよ、へへへ』
と、そっと言い苦笑いする私をよそに、その男はこう切り出した。
『へぇ、見てみたいなぁ。』
『あ、そうですか?じゃあ持ってきますね。』
私が、“ゴミ”の入った箱を持っていくと、その男の眼差しは途端に鋭くなったように思えた。彼にはどんななものに見えたのだろうか。
『ほぉ、これはすごいなぁ。あぁ、こんなモノもいただいたのかい。』
『どうです?なにか、貴重なものがあったりしますか?』
『いや、それはないんだが。ただ.....一ついただいても構わないかな?』
『え、欲しいんですか?コレ?』
『私は、なぜだかコレに惹かれるんだ。そう、ただ.....それだけだから、君が御老人の好意を無碍にしたくないというなら、もちろん無理にとは言わないが。』
『いえいえ、私はこんなものたくさん持ってても埒があかないので、ぜひ持っていってください。』
『ありがとう。では、一ついただいて行くことにするよ。』
『はい。』
外は雨が降っていた。夕立だろう。外も薄暗くなり、商店街の街灯にも明かりが灯り始めた。あの会話以降、特に話すこともなくなり、私が食器などの手入れをする音と、店でかけているラジオだけが、静かに流れていた。
薄暗くなってきた店にもパチっと灯りをつける。その時、その男の顔に涙が流れているようにに見えた。やさしいオレンジ色の明かりが、店を包み込む。そして、皮張りの赤茶色のソファ席が艶やかに光っている。くすみブルーの壁とのコントラストも実に素敵に見えた。
『お会計はこれで』
男は、机にお金を置いてすっと立ち上がった。見るからに、代金より多い金額だ。
『お釣りは、いいんですか?』
『あぁ、今日はおしゃべりも楽しかったしね、それは君へのお礼でもある。いい店だ。また来るよ。』
『はい!ありがとうございます。』
その男は軽く会釈をして、鞄から黒いコートを出し全身を包むと、バサッと黒く大きな傘を開いて店を出ていった。
『なんだか、不思議な雰囲気を感じる人だったな』
私は、お客のいなくなった喫茶店のカウンターで、抹茶ラテを飲みながらポツリと呟いた。
その1週間後、あるニュースが新聞紙面の一面を飾っていた。
『テレビ出演もある骨董商、詐欺の疑いで逮捕』
顔写真も載っている。それはちょうど1週間前に見た男の顔写真であった。




