老紳士と老婦人(1)
あのお客が詐欺師だとは彼女は心にも思っていなかった。
怪しい雰囲気だとは思っていたが、その感が的中するとは.........
我ながら恐ろしいと感じる。天才的な探偵の才能が開花したか。こんなアホなことを言ってる時ではない。
記事には、他にこんなことが書いてあった。『〇〇容疑者は贋作を売って生計を立てていたと話している。家宅捜索の結果、鑑定額500万円の石が見つかった。〇〇容疑者は知人にもらったと話しているが、警察は、贋作制作組織につながる可能性もあるとみて、この石の入手経路について調べている。』
私は青ざめた。なんてことになっちゃったんたんだろう。でも、大丈夫だよね。怪しいことは全くない。あのおじいさんにもらったことを話せばいいだけ。それから2、3日たったが警察は来なかった。
「結局どうなったんだろ?」それからはテレビでも、新聞でもそのニュースは徐々にやらなくなり、彼女がした並々ならぬ覚悟は不意に終わった。
それからしばらくした、7月の終わり。また老紳士が店を訪れ、パンケーキと紅茶を頼み、店を後にした。今回は”ガラクタ”を置いてはいかなかった。
ただ店を出るとき
「また、プレゼントを持ってくる。それでは、お嬢さんまた来週」
と茶目っ気たっぷりに言って店を後にした。それから老紳士は店を訪れることがなくなった。
ある日、おつかいから戻ると老婦人がソファ席に座っていた。
「マスターまた店あけてどっか行ったなぁ。ハァ。店をあけてしまいすみません。」
「あら、大丈夫よ。注文お願いしてもいいかしら。」
彼女はそういうと紅茶とレモンを頼んだ。店内に流れるクラシックの移り変わりがゆったりとした平日の午後の時間の流れを伝えている。
少し昔話を聞いてもらっても良い?と私に声をかけて、「はい」と返事をすると、彼女は思い出をなぞるように話を始めた。




