風変わりなジェントルマン
『お忘れ物ですよ.....』
『いや、それはそこに置いてあっていいものなんだ....』
そうやって何回ゴミを置いていったんだ。めんどくせぇなら、めんどくせぇって言えや。という気持ちを押し殺してにこやかに対応する。
『でも、そんなこと言われても困ります、お客様』
その仕立ての良さそうなスーツを着たすらっとした老紳士はいきなり指を鳴らし、何かに気づいたような素振りをした。
『あ!お嬢さん、お店の中で花瓶が倒れたようだ。何か音がした気がしないか?やっぱり、ほら、水がこぼれていますよ。こりゃ大変だ。』
指す方を見ると本当に花瓶が倒れ水がこぼれている。
『え、ほんとだ。』
ふと振り返り、彼女は紳士をじっとりと見つめる。
『ん....どうしたんだね。』
『ちゃんとここで待っててくださいよ!き ょ う こ そ は!』
『あはは。なるほど。わかったわかった。ここで待っているよ。うん。』
紳士はややたじろいだように笑って答えた。
彼女が拭き終えて戻ると、出入り口にはカモミールの香水がかすかに漂うだけだった。
『あのじじいぃ!まぁーた、ゴミ置いてきやがって!!』
顔をしかめて、不満げにボソッとつぶやき、店の戸をバタンと閉める。日に日に強くなっている日差しのもとで、店先のコスモスが、まだ涼しさの残る風にふわりふわりと揺れている。
あの紳士がよく店に来るようになったのは、3ヶ月ほど前で、ちょうど桜が咲き始める頃だった。
毎度毎度来店するたび、パンケーキと、カプチーノか紅茶を頼んで、"ごみ"を置いていく老紳士である。身なりが良いのでそこそこお金持ちなのだろう。なんの仕事をしていたら、あんな穏やかにわがままして生きられるんだろうか。あぁ、私も自分勝手に生きてぇ、彼女は心底そうおもった。
その老紳士は何故だかわからないが、毎度毎度妙なものを置いていく。パンケーキを運んでいくと、訳の分からないことをずっとしゃべって、君はなにか必要そうな顔をしているねとか言って、何かの破片とか、色のついた石とかを置いていく。これでも私は史学科に通っているので、なにか歴史的なもかと疑って、一度は個人的に調べてみたが、私の調べではただの石と欠片に違いないようだった。そういうことで、あれは変なじいさんに違いなかった。




