三つの選択
「ただいまー。」
邦海が誰もいない家の中に向かって言う。いつものことなのか返事が来ないことには無反応で靴を脱いでいる。
そのまま自分の部屋に直行し、引き出しの中から例の封筒を出した。
中に入っている手紙をこれまた丁寧に出し、引き出しの中に戻す。
封筒をもって一階に降りたその時、呼び鈴が鳴った。
慌てて封筒を机の上に置いた後、玄関に向かっていった。
「はーい。」
外に立っていたのは紗夏衣だった。
「あれ、さなさん。」
「本当は春井さんが来るはずだったんだけど急用でね。」
紗夏衣はちっとも申し訳なさそうな素振りを見せていなかったが、邦海は気にしなかった。
「それで、脅迫状はある?」
早速本題に入った紗夏衣に「とりあえず家の中入って。」と半ば強引に家の中へと案内した邦海はキッチンに向かい、少し迷った挙句コーヒーを入れ始めた。勿論、インスタントである。
「ああ、ありがとう。」
予想していなかったのか少し驚いた顔をしつつも受け取った紗夏衣は、既に封筒の中から脅迫状を取り出していた。
「文章自体は前のと変わらないわね。問題は…こっちなんだけど。」
と急に隣に置いていたボディバッグからライターを取り出し、脅迫状をあぶり始めた。
「あぶり出し?」
紗夏衣が邦海の質問に頷くより早く脅迫状の右下にはとある文章が浮き出てきた。
「今度は『大総統』か…。違う人って事かしら。」
「今度は、てことは何回かあったんか?」
紗夏衣はぴくっと眉をひそめた後、諦めたような顔をして説明し始めた。
一週間前の翠川優羅さんも同じような方法で殺されていたこと、それはごく一部の関係者しか知らないということ、そして被害者のカバンの中に同じ脅迫状が入っていたこと…。
「まあ、前回は大総統じゃなくて袁世凱って書かれていたんだけどね。」
「職業じゃなくて人物名って事?」
思い当たる節があったのか、邦海は考え込み始めた。
「まあ問題はそこだけじゃないんだけどね。」
「といいますと?」
紗夏衣は『大総統』の下を指した。
「あと一人…はあ!?」
「これは前には無かったんだよね。何でだろう…。」
動揺する邦海とは反対に、紗夏衣は冷静を保ったまま脅迫状をカバンの中に入れた。
「それじゃ、来週日曜日にまたね。」
「何があった…あ、あれか。」
邦海は頷いて紗夏衣を見送った。
紗夏衣が見えなくなったところで、邦海は急に不気味な笑みを浮かべた。
「分かりすぎだろ、あいつ…。」
ポケットに入れていたスマホを取り出して、少しいじっていたが飽きたのかソファに投げた。
そして無言でコーヒーを入れていたカップを流し台に置き、その足で自分の部屋に行った。
スマホには、通知が一件届いていた。
○
「今週の土曜日だけで3つか…。」
紗夏衣は、信号待ちの時にスマホで土曜日のコンサート会場の数を調べていた。
「全部に張り込むのはちょっときついしな…てか時間同じだし。」
ぶつぶつとつぶやいていると、後ろから軽く背中を押された。
前を向くと、信号は青になっていた。
「あ、すみません。」
後ろの人に謝って渡ろうとすると、後ろの人が突然声をかけてきた。
「さっき、何言ってたんですか?張り込むとか…。」
どうやら独り言が聞かれていたようだ。
「ああ、ちょっと…。」
紗夏衣は慌てて言い訳を考えていた。
「友人にコンサート誘われたんですけど、どこなのか分からなくて…。」
「だったら、如月ホールかもしれませんよ。」
「こ、根拠は?」
誰かわからない人に話しかけられていることに今更気づいた紗夏衣は警戒しつつも理由を聞いた。
「だって、あそこだけが自由に入れますから。一番規模が大きいですし、場所的に待ち合わせもしやすいですからね。」
そういうとその人は足早に紗夏衣のそばから去っていった。
「自由に、か…。」
スマホ画面に視線を戻した紗夏衣は他の2つの情報を調べた。確かに予約制となっている。
「てかあの人何だったんだろ。」
不審に思いつつも、紗夏衣は警視庁の方向へと向かっていった。
浩幹「そういやもう5月ですね。5月といえば、誠介さんの誕生月なんですよね~…何あげたら喜ぶと思います?先輩。」
邦海「…純粋に現金でいい気がする。」
浩幹「夢ねぇな。」
小説掲載予定。かけるかはわかりません。上げるところは「黄昏と丑三つ時」です。




