特殊メイクの使い方
「成程な…。」
警視庁の前にいた春井はつぶやいた。
「まああくまで推理であって確信はないし、可能性が高いってだけなんだけどね。」
一緒にいた紗夏衣は調べていた候補として挙げていたコンサート会場を春井に見せながら自分の推理を説明していた。
「まあ場所が分かったとしてもどうするかだよな。今のところ現行犯じゃなければ逮捕は難しいぞ。」
「え、嘘。なんで?」
スマホをいじっていた紗夏衣は驚いて顔を上げた。
春井は決まりが悪そうに俯いた後、意を決したのか話し始めた。
「実はな、先日上から連絡があってさ。」
「うん。」
「この事件にはもう手を引くってさ。」
「はぁ?まだ時効じゃないよね?なんでよ、相手は人を2人も殺した殺人犯だというのに。」
凄い剣幕でまくし立てた紗夏衣をなだめながら、春井は大きなため息をついた。
「俺だってそう思うんだけどよ、上に言われた以上従わないといけねぇし…。」
「だったら…。」
私達がやるわよ、と紗夏衣は誰かに電話しようとしたが、春井はそれを遮った。
「いや、一応味方というか手伝ってくれる人は確保したから…。」
「え、誰?何人?」
○
そして金曜日。
「まって、明日ちゃうん!?」
次の移動授業のために廊下を歩いていた邦海はふと気づいて誠介に話しかけた。
「ああ、まあな。向こうも何かいい案決まったんじゃねーか?」
どこか他人事の誠介が答えた。隣には眠たそうに眼をこすっている俊太もいる。
「いや、昨日さなさんが『いい案無い?』って聞いてきたから向こうも多分…。」
「マジか、どうすんだよ。明日だよな?確か予想では。」
「そうそう、どうしようか、ホンマ。」
真剣な表情で話し合っている2人のそばで、俊太は大きなあくびをする。
「どうしたの?凄い表情してるけど。」
その様子を見た星梨奈が話しかけてきた。
「いや、次の殺人どうしようかなって。」
「警察呼ぼうか?」
説明不足だった返事に星梨奈は半ば呆れながら冗談を言った。
「囮とかは?」
推理小説の定番だし、と提案をしたが、誠介は黙って首を振った。
「それは不特定の人を襲うときのやつだろ?今回は決まってるからさ。」
そんな話をしていると、第一ホールに着いた。
「どうでもいいけど、次の時間俺どっかに行っとこうかな…。」
そういって俊太はため息を吐いた。
次の授業は、動画鑑賞をすることになっていた。
見るのは1組の劇。
劇を見て反省点などを話し合い、次に生かそう、というものだ。
「第一さー。そこまで劇に力入れてないんだからみんなで見なくていいんだよ、本当に!」
声を荒げながら俊太は叫ぶ。
「でもさ、演技は結構よかったよ?アドリブまでしちゃって…。」
星梨奈が思考をめぐらしながら答える。
「いや、全然だろ。焦って何回もこけかけたし。」
「そうなのか?全然分からなかった。」
「分かったとしてもそれも演技やと思われるんちゃうん?」
不満げに愚痴を漏らす俊太に、誠介と邦海はフォローをする。
「でもさ、やっぱり森はあれでいったほうが良かったよ、うん。」
「あれ?」
「特殊メイク。それでいこう、って話になったんだけど、結局普通のメイクですることになったんだよね。」
星梨奈が少し残念そうに語る。
「あったりめーだろ。あんなやつ、付けてたら暑くて暑くてしょうがねーもん。」
「森がやってた役は色白高身長且つイケメンなんだよ?付けないと…まあ百歩譲ってイケメンはクリアしてたとしても…。」
「色白は無理ってか?結果的に何とかなったんだからもういいだろ。」
俊太は怒ってそっぽを向いた。それを見てくすくすと笑う星梨奈。
「なあ、誠介。」
「邦海もそう思う?」
互いに名前しか言っていないが、どうやら考えていることは同じようで、目を合わせて頷いている。
どうやら、解決策を見出したようだ。
もうすぐ終わる…本編が。
もう少し伸ばしたかったけどこのあたりが潮時なのかなぁと悶々と考えている日々。




