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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第五章
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調停と婚姻Ⅴ

 ふわりと冷えた風が王宮を撫でていく。

 長引いたお茶会の結論が出たのも夜遅く、お茶会の参加者は皆王宮の客室で夜を過ごす事となった。

 その一室。

 冬も間近くなってきたのを告げる冷えた風が、開かれた窓から室内へと冷気と共に空気を清めていく。

 マントを羽織る事なく、黒地に銀糸金糸の刺繍が施された服に、様々な色合いの多くのガラス玉を身に纏ったシルバーは、窓から入ってくる風に金色に僅かに銀が混じった髪を気持ちよさそうに舞わせていた。

 朝の冷たい風が纏った魔導力を、その身へと取り込んでいたのだ。

 その為、金色に変わってしまった髪が、ほんの僅かではあるが銀色を僅かに取り戻していた。


「――っ―――ラ――――リン――フィ――…ナ――リュ――……」


 一般の人間では聞き取れない発音の歌のような旋律を、シルバーは口ずさむ。

 それは、風を受けながらずっと小さく詠唱のように紡がれていた、失われた神語の詩であった。

 低位の魔導士であれば詠えないであろうその詩を、シルバーは自らの研究の一環として左の魔導により読み解き構築し、幾つかの効果を実証した為に、必然的に左の魔導の位階も高くなっていた。神語の詩は、それは魔導士が使う詠唱と同じ物を新たに作り上げたともいえるのだから。

 風とシルバーが詠う神語の詩に、身に付けているガラス玉が震えしゃりんしゃりんっと、硬質的な音立てていたが、風の弱まりを感じてシルバーは詩を紡ぎ終えてガラス玉の歓喜する音も静寂に誘った。


「今日はこの程度かな。まあ急がなくても自然に魔導力は戻るが、キシャルに文句言われそうだからな……」


 くつりっと喉を震わせて笑いを零すと、そっと窓を閉じながら身に宿る魔導力の回復具合を感じとった。


「さてと、時間は夕べ伝えておいたからそろそろいいだろうし、レディ・キャットの調停の儀を行うか」


 誰に聞かせるまでもない独り言を呟きながら踵を返し、レディ・キャットが夕べ泊まった客室へと滑るように優雅な足取りで歩き出した。

 程なく辿り着いた、自らが泊まった客室近く、レディ・キャットの客室の扉の前で、三度扉を小さく叩く。

 待ち構えていたかのように、扉が開かれてシルバーはレディ・キャットの部屋へと滑りこむように室内へと入り、背後で扉を閉めた。


「待たせてしまったかな?国王陛下も、エーベルハルド殿下もすでに集まっている事だし、私が最後のようだね」


 悪びれたふうもなくシルバーが言うが、いつも身に纏っていた白いマントを纏っていない事に、国王とエーベルハルド殿下はシルバーの身を飾るガラス玉の量に目を瞠った。


「いいえ、時間通りですわ。ただ、こちらの国王陛下とエーベルハルド殿下が早起きされてきただけの事…夕べの結論に納得いかないのか、まだ話しをしたかったようですわ」


 困ったものだと、朝早くながらも完璧な淑女のいで立ちでレディ・キャットが苦笑を零す。そんなレディ・キャットの言葉に、誤魔化すかのように国王とエーベルハルド殿下が視線を逸らした。


「では、謝罪はいらないね。調停を行ってしまおうか。また、お二人の気が変わってしまわないように」


 同じように、先に来ていたシルバーの部下であるチェルソとハーラルトも室内におり、調停の補佐という程ではないが、余計な魔導力の干渉がないようにと、室内へと結界を張っていた。

 それだけではなく、調停を行う為に事前に室内の浄化も二人が行っておいたのだ。

 レディ・キャットと選ばれた候補が、室内の中央で家具を退かされた位置に佇む。

 シルバーの手が軽く宙に留め置かれ、シルバーの眼差しが閉じる。


「誘われし闇と光

 金と銀の瞬きよ

 我が意の元

 調停を受け入れよ」


そっと呟くようなシルバーの声音と共に、徐々にシルバーの手から金の光が溢れだすように室内に広がり、唐突にその光は収縮するとレディ・キャットの胸元へと消えていった。

 一番簡単な、調停の詠唱であった。

 だが、光と闇の魔導はそれぞれ調停と契約を得意とする魔導であるために、シルバーにとっては一番の相性のいい魔導でもあった。


「ん、これで大丈夫。どんな存在であれ、私の婚姻調停が締結したからには邪魔は出来ないよ」

「それにしても、見事な抜け道を見つけたものっすね。国王陛下とエーベルハルド殿下二人の婚約者となることで、準王族扱いとして領地の相続が出来ちゃうって面白いっすけど、どっちにしてもレディ・キャットは二人のうちどちらかを選ばないといけないんっすよねー」

「ええ、そうなのよね…どっちかを選ぶにしても、こんな法の抜け道があるなんて私も知らなかったわ。それでも、元の三ケ月という期間が半年に伸びただけですけれど……」


 頭痛でもするかのように、額を手で押さえてレディ・キャットは近くのテーブルに手を付いて俯きチェルソに反応する。

 そう、夕べの話し合いにおいても、候補者である国王とエーベルハルド殿下のどちらかを絞り込む事が出来なかった故の特例である。

 この法の抜け道を知っていたのは、もちろん国王ではあるが、国王もエーベルハルド殿下もレディ・キャットとの婚姻を譲らないという姿勢が国を荒らす元になりはしないかと、レディ・キャットとしては頭が本当の意味で痛い思いであった。


 レディ・キャット自身が選べばいいのだろうが、どちらを選んでも角が立つのだ。

 そして、国中の女性の嫉妬を一身に受けるのだから、レディ・キャットとしても自ら選択したくないという珍しくも及び腰であった。

 結局は、どちらを選んでも問題が出るというのならば、候補者達である二人に決着をつけて貰おうとレディ・キャットは最終的に投げ出していた。


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