調停と婚姻Ⅵ
「あはははは、まあモテる女性は辛いって事だね。でも、私の調停の上での事だから、どちらかがレディ・キャットに乱暴するという事は物理的に不可能になっているから、諦めて結論を待てばいいさ。結論が出たころには、私は中央に戻っているだろうから、結果を知るためにレディ・キャットには魔導具を渡しておくよ」
楽しそうにシルバーは言いながらも、紫色の中に金粉が舞っているかのような宝玉をあしらった、ネックレスを取り出してレディ・キャットの首に掛けた。
音魔導を示す紫と、闇魔導を示す金の二色を内包し、親指程の中々に大きな宝玉であった。
「これは…?」
「夕べのうちに創っておいたんだけどね、音魔導と闇魔導を組み合わせてあるから離れた距離での会話が可能になるんだよ。だから、これを使って私にいつでも連絡が取れるって事だね」
「げ、またいつのまに長は、そんな恐ろしいもの創っていたんっすか……」
思わず口走ったチェルソが口元を慌てて抑える。
賢明にも、ハーラルトはチェルソのような愚を犯すことなく、眼を瞠るだけにとどめていた。
もちろん、首に掛けられたレディ・キャットはチェルソの言葉にぎょっとしたが。
「チェルソ…人の創った魔導具を恐ろしいとか、どの口が言うのかな?私が作った魔導具が、これまで暴走した事など一度としてないじゃないか。暴走したとチェルソが思っているのは、アレは故意だからな」
堂々と言い放つシルバーであった。
それだけで、チェルソがどれだけシルバーの魔導具の実験台にされていたかが推し量れるというものだ。しかも、故意にである。シルバーの性格も相当のものだった。
「長……故意だったんっすか。俺どれだけ実験台にされてたんっすかー……」
「チェルソ、長の性格は今更の事だ。諦めろ。どうせ中央に戻るにあたって、私は暫く一緒にいられないから、お前が長の筆頭副官になるんだぞ」
「はっ!そうだった。ハーラルト、一緒に帰れないんっすか?俺一人じゃ、長を押さえるなんて無理っすよー」
「お前ら、どれだけ人を危険人物扱いするんだ…」
ハーラルトに縋り、半泣きになったチェルソを放置して、シルバーはレディ・キャットに魔導具の使い方を教えていた。
そんな、シルバーの周囲でエーベルハルド殿下がシルバーの身体に吊るされたガラス玉の数を密かに数えていたのだが、誰もその行動を止める人物はいなかった。親であるはずの国王は、今後の事を考えながら優雅に椅子に座りお茶を飲んでいたのだから。
シルバーがレディ・キャットへと魔導具の使い方を教え終わったころに、エーベルハルド殿下がシルバーに持前の特異な趣味を発揮した。
「ふむ、シルバー…貴方って、チェルソやハーラルトが言ってるように長の一人であることは疑いないけれど、どの魔導の長なんだい?ガラス玉の数を数えてみると、どの長になってもおかしくなさそうな数だけれど」
「んーエーベルハルド殿下初め、この部屋の中にいる人間は口が堅そうだから言っておいてもいいかな。私は闇魔導の長だよ。だから、瞳の色が闇魔導を示す金色だろう?」
全てを明かすわけではなく、一部をシルバーは口にする。
敢えて口にしなかった内容は多々あれど、それを口にしてしまったら魔導教会の権威というものが揺らぎかねない事実もあったのだ。
そして、シルバーは闇魔導の長である証拠とばかりに、今は金色に染まってしまっている本来銀色の髪を、指でつまんでゆらゆらと揺らして見せる。
「なるほど、だから闇魔導の魔導力が高くて、光の魔導力を遺跡で使った為に髪の色が闇魔導を示す色になってしまっているんですね」
「そうそう、飲み込みが早くていいね、エーベルハルド殿下は。うちのチェルソも見習って欲しいくらいだ」
笑顔で茶化すように言うシルバーの、エーベルハルド殿下に対する会話の内容に気を引かれて、ハーラルトとチェルソは眺めていた。
ハーラルトとチェルソに言わせれば、シルバーは偽名のままの上、闇のみならずに光魔導の長でもあるのだ。通常兼任などという事はありえないのだが、その魔導力の高さ故に成り立っている世界でも稀有な存在である。歴史を紐解いても、そんな存在は一人居たかどうかであろう。
それだけではなく、他にも敢えて口にしない内容の数々に、自分たちの上官のはぐらかし方には納得すべきものではあるが、何処か複雑な気持ちであったのだ。




