調停と婚姻Ⅳ
確かに、シルバーは正しく候補を選んだのだ。
下手に貴族階級を選べば、自らの影という仕事に支障もでるだろう。それだけではなく、領地を荒らす可能性だってある。それを考えれば、王族に入り自らが領地を管理出来るというのは、ある意味で安心出来るとレディ・キャットは計算をした。
「そう…ですわね。シルバー貴方が選んだ候補であれば、私の初めの願いであった領民を守る事が出来ますもの……これほど、領民を守るという事に確実性は他ではありませんわね」
ただ、自らの思考を纏める為の独り言のように、レディ・キャットはぽつりと呟くような言葉を紡ぎながら、そっとその緑の眼差しを閉じた。
王族の伴侶になれば王族としての義務が生じる。だが、これまで元王妃の秘書官、そして影として働いてきたレディ・キャットにとって王族としての振る舞いを取る事は難しいものではない。
本当に、シルバーは合理的すぎる候補を選んだものだと、レディ・キャットは思い細く溜息を零し、彼女自身気付かないうちに閉じた眼差しから一筋の雫が零れ落ち頬を伝った。
そんなレディ・キャットの姿を、王族であり候補者とされた国王と王太子の二人は、静かに見守っていたが、その脇ではシルバーが遠慮なく焼き菓子を手にしては、宙にぽいっと放っては口で受け止めるという気軽というより能天気な行動をとっていた。
勿論、すぐにハーラルトから拳骨を貰って、シルバーは頭を押さえてテーブルに突っ伏していたが。
「判りましたわシルバー。貴方が選んでくれた候補のうち一番目か二番目を選ぶ事とします」
「ん…それじゃあ、エーベルハルド殿下か国王陛下ってことだね。どちらにするかは、候補者のアピール度合で決めるかい?」
閉じていた眼差しを開き、決意を口にしたレディ・キャットへと、ハーラルトに殴られた頭をさすりながらシルバーが人差し指を、ぴこぴこっと候補者の二人を示すように左右させた。
「それならば、是非とも私の王妃として迎えたいね。王族の数の少なさから、側室でもいいから持てと貴族連中から色々と押し付けられそうで困っているのもあるが、レディ・キャット程の女性は私とて前々からその才能共々、愛を紡ぐ相手として狙っていたのだからね。その為に、どれだけ害虫を排除してきたことか…」
シルバーの候補者のアピールという発言に、即座に反応した国王陛下が、色々と問題発言を含めながらも、レディ・キャットへと熱い眼差しを向けつつ、席を立ちレディ・キャットの傍へと進む。
敬愛する国王の発言の中にある問題発言に、思わず頭痛を覚えたレディ・キャットが扇の下で溜息を零す間にも、国王はレディ・キャットの傍らに立つと、レディ・キャットの手を取り愛を乞うかのように跪き、その手に口付けを落とす。流石に慣れた仕草であった。
その光景を見ていたエーベルハルド殿下が、我に返ったようにがたりと席から立ち上がった。遅ればせながらも、参戦という所だろう。
面白い寸劇でも見るかの気分で、魔導士たち三人は生暖かい眼差しでその光景を眺めていた。
「ちょっと、父上お待ちください!私だとて、レディ・キャットの婚姻候補として調停に選ばれているのです。それに、レディ・キャットだったら、私も他の貴族の令嬢と違って…あ、あ、愛して…いるのです」
顔を赤く染めながらも、エーベルハルド殿下はそう告げながら国王の手からレディ・キャットの手を奪い取った。
国王の態度はいつもの事と思えるが、エーベルハルド殿下の発言と行動は初めての事で、レディ・キャットも国王も驚きを隠せないでいた。
これまで、エーベルハルド殿下がどれほど女性と縁がなかったという証拠でもある。
「チェルソ、ハーラルト…どっちが美女を勝ち取るか賭けないか?」
王族二人が、美女を挟んで言い合い出したのを見て、シルバーは自らの部下を手招いた後、小さくそう囁く。
その眼差しは、とても楽しそうでもあり、同時にとても優し気な眼差しでもあった。
「長、俺は気持ち的にルド殿下を押したいっすけど、流石に国王の方が上手っぽいっすから五銀貨賭けるっすよ」
「そういう場合ではないでしょうに…ちなみに、私はこれまで害虫を払ってきたという手腕的に国王の方へ五銀貨ですね」
文句を言いながらも、ちゃっかり賭けているハーラルトと、のりのりで賭けているチェルソ。どちらも、シルバーの部下だけあって、気楽な性格を持ち合わせていた。
「では、私は初々しい初恋だろうルド殿下に五銀貨だ」
「私は国王陛下に五銀貨のらせて頂きます」
シルバーがエーベルハルド殿下に賭けた直後、このお茶会に給仕として参加していた影の侍女がちゃっかりと混ざり込んで国王へと賭けると魔導士たちの会話に混ざっていた。
さすが、影だけあって、魔導士の三人に気配を悟らせる事無かった為に、初めは驚いたものの、賭けに参加する茶目っ気がある事にすぐに馴染んで賭けの勝敗を見守った。
結局、レディ・キャットの婚姻調停が確定し、婚姻相手が決まるまで楽しいお茶会は続けられることとなり、晩餐の時間が遅れたのは言うまでもない事であった。
区切りがいいところをと思っていると、しおりを挟み難い程長くなってしまう為、今回も短くて申し訳ありません。




