調停と婚姻Ⅲ
再び、シルバーは三つ目の焼き菓子をテーブルに置く。
「そして、三人目の候補は、うちのハーラルト。遺跡の正式な管理をする魔導士が教会から派遣されるまで、少なくとも二~三年はかかるだろうからね、その間の管理にハーラルトを置いていこうと思っているから、その間に子供でもさっさと産んじゃって後継者に据えてしまえばいい。あの規模の遺跡の管理ともなると、生半可な魔導士を送るわけにもいかないから、教会の長たちも自らの手駒をそうそう手放したくないだろうし、私が見積もった時間に差異はそれほど無いと思うから、ハーラルトを即座に中央に呼び戻すという事もない」
にっこりと、悪意も他意もなさそうにシルバーは秀麗な面差しに微笑みを浮かべているが、自らの名前を聞いていたハーラルトが部屋の隅でがしゃんっと何かを落とした音がしていた。
「子供を産んでって、その子供を産むのだってそう簡単にいくものじゃないでしょう?」
「あ、レディ・キャットは知らないかな。魔導士の間では結構常套手段になっているのだけど、魔導士同士の婚姻でも仕事に手が空きそうな時期を狙って子を産んでしまおうってことで、魔導力を行使する事があるんだよ。だから、年齢も性別も運も関係なく、受胎は可能と思ってくれていいよ」
さらっと、部外秘な発現をシルバーが口にすれば、呆れたようにレディ・キャットは溜息を付く。
妊娠に関して、魔導力を使えるという事で今の所の候補全てが、問題がなくなるという事でもあるのだ。その事に気付いた為の溜息である。
だが、シルバーが言った内容の中で、一番気付くべき単語がある事に、これまでの候補者の名前を聞いていたシルバー以外の者達は気付く事が出来なかった。シルバーは、年齢も性別も運も関係ないと言ったのだ。そう、性別すら関係ないと……。それは、親の性別も生まれてくる子の性別もどちらも心配する必要がないという事でもあった。
「節操って単語は、魔導士たちには無いのかしら……」
「嫌だなー、合理的と言って欲しいな。両親が魔導士だった場合、その子供が魔導力の素質を持つ可能性は高くなるから、魔導士だって色々苦労しているのだよ。その点で言えば、ハーラルトを選んだ場合、魔導力の素養があるレディ・キャットには後継者の一人と言わずに、二人でも三人でも産んで魔導力の素質のある子が出来たら、中央に欲しいなーとは思ったりもするけど」
能天気そうに見せかけて、笑っているシルバーの背後へと、いつの間にか移動してきていたハーラルトの低い声が響く。
「隊長……いえ、長。その話は、全く初耳なのは何故なのか教えて頂けますか」
がしっと、シルバーの両肩に背後から手を置いてわし掴むように力を籠めながらハーラルトが視線を落としていた。
王都に戻って以来、一度たりとてシルバーの事を隊長という呼び名から変えていなかったのにも関わらず、敢えて長と呼ぶあたりにハーラルトの感情の揺れが大きく出ていた。
「いだだだだだ……ハーラルトお前、力込め過ぎだ」
「後程、詳しい話しを聞かせて頂きますから、そのつもりで…」
真顔で騎士然としたハーラルトのこめかみに、僅かに血管が浮きそうだったが、ハーラルトはこの場では大人しく両手を離してシルバーを開放した。
「まったく、こんなにいい相手を紹介しようっていうのに、怒る事は無いじゃないか…」
ぶつぶつとシルバーが愚痴りながらも、ハーラルトに鷲掴みにされた肩を軽くほぐすように撫でてから最後の焼き菓子をテーブルに置いた。
「さて、最後の一人である四人目。これは一番お勧めしないんだけど、王弟殿下。ルイーダ殿下の件があったから、王弟殿下の動向を監視するという目的も兼ねての婚姻だね。幾らすぐれた人物でも、馬鹿息子の仕出かした事に対して、どういう反応を起こすか判らないからね、人間というものは」
「確かに、王弟殿下は親馬鹿と言っても過言はありませんし、監視役は今後必要でしょうね。けれど流石に、事がことだけに王弟殿下の方が私では嫌がるでしょう」
「そこは、王族たるもの感情ではなくて王の命令という形を取ってしまえばいいんじゃないかな?ルイーダ殿下に関してはすでに先はないんだから、王族を増やすという点でも王弟殿下に新しい子供でも出来れば、王弟殿下の愛情も移るかもしれないだろうしね」
あっさりとルイーダ殿下を切り捨てた言葉を口にしながら、シルバーは並べた焼き菓子を端から口の中へと放り込んでいく。
そんなシルバーの姿を見ながら、レディ・キャットは扇で口元を覆いながらどの候補を選ぶべきかと思案した。
どれを選んでも、現状とは違った苦労が待っているだろう。
そして、どれを選んでもレディ・キャットの望みである、領地の民や使用人達の今後は保証される。
確かに、シルバーは正しく候補を選んだのだ。




