調停と婚姻Ⅱ
お茶会用に用意されたお菓子の山を、新たな場所に移して、シルバーとレディ・キャットのお茶会が続いた。
今度の場所は、陽の光が気持ちいい中庭の一つである。
新たなお茶会には、国王陛下とエーベルハルド殿下の二人も加わっていた。
但し、給仕を行うのはチェルソとハーラルト、それと口の堅い影の侍女の一人であった。
「そういう訳で、ルイーダ殿下に関して魔導教会は手を引く事にしたので、後はこの国での処理を期待していますよ」
国王同席という事で、僅かに改まったシルバーの口調。
相変わらず、男盛りといった良い男っぷりの黒髪の国王が、椅子のひじ掛けに肘を乗せたまま、ひらひらと手だけを振る。
「魔導教会の方が手を引いてくれて助かったが、我が国としてもそれなりの処置にはなるから失望はさせないさ。だが、ルイーダの馬鹿が捕まった時に、レディ・キャットが居てくれて助かったな。影としてこれ以上はない働きだ」
嬉しそうに笑みを浮かべ、懲りずに艶めいた眼差しをレディ・キャットへと向ける黒髪の国王に対し、その子であるエーベルハルド殿下は従兄弟のしでかした事に憂鬱そうに俯いていた。
だが、以前と違いエーベルハルド殿下は遺跡の中でシルバーに強制的に髪をいじられた時程ではないが、長かった前髪も短くなり美丈夫な父親である国王譲りの貴公子然とした面立ちを露わにしていた。
「お褒めに与り恐悦ですわ。他の細かい情報などは、また後程、書類として整えてから陛下にお届け致します」
陽の下で、綺麗に結い上げ一層鮮やかになった紅の髪を揺らして頭を下げ、口角を上げて極上の笑みを持ってレディ・キャットが国王に応える。
憂鬱そうにしていたエーベルハルド殿下がその笑みを見て僅かに頬を染めているが、同じくレディ・キャットの笑みに眼を奪われている国王が気付いてはいなかった。
気付いているのは、シルバーたち魔導士という何とも情けない話である。
「そうだ、レディ・キャットの調停の件だけどね、此処に丁度いい証人もいる事だし、候補の話をしてしまっていいかな?」
国王の前であろうと、すぐに砕けた口調になってしまったシルバーに、王族の二人は気にする事もなく、レディ・キャットの調停という単語にぴくっと僅かに反応を示していた。
そういえば、先程までのお茶会では候補が絞ってあると言っていた事を思い出したレディ・キャットは、国王陛下が証人になって貰えるのならばこれ以上はないと思い、手にしていたカップをテーブルに置くとシルバーへと軽く頷く。
「勿論ですわ、この場であれば陛下が証人となって下さりますし、後から他の貴族に横槍を入れられる事もなくて助かりますもの」
「じゃ、決まりだね。まず、レディ・キャットの条件を満たす人材を探すために、私が使い魔に調べさせた所、候補は四人」
お菓子へと手を伸ばしながら、手頃な小さな焼き菓子を四個選び取りそれぞれの候補に見立てる為に自らのテーブルの前を空ける。その間にも、シルバーは候補選びに苦労した事を愚痴り気味に続けた
「調停を受けた時には簡単に見つかると思ったけどね、これがまた難しかった。レディ・キャット、貴女の条件を満たす未婚の男性ってのは意外と難しいものだったよ…だから、多少の所は目を瞑っての四人だ」
「あら、そんなに難しい条件だったかしら?」
シルバーの愚痴に、心当たりがないとばかりに首を傾げながら、レディ・キャットは悪戯な笑みを浮かべて瞳を細める。
判っていて言っているのだと、その場に居た全員が思ったが誰一人として口に出すような愚を犯すものは居なかった。
「どの口がそれを言うかなー。貴方と婚姻する事で、キャット伯爵家の所領を管理出来る頭を持っている事、これだけで平民はほぼ除外されるだろう?その上、ある程度の吝嗇家ときたら貴族の殆どが除外されてしまったよ」
あははと笑いながらも、シルバーもはっきりと条件の内容を改めて口にしていく。
その事による、候補選びの中身を、証人となる国王の記憶に残す為だ。
「え、レディ・キャットの調停って、婚姻相手についてだったのかい?」
一人知らなかったエーベルハルド殿下が、驚きの声を上げるが誰からも返事を返される事無く黙殺された。
「更に、夜の優先権は貴女が掴める相手という事で、一度全部の候補が消えてしまったのだけどね、ある程度の譲歩が出来ると言っていたから、他の条件を優先して考えさせて貰ったよ。貴女の仕事を認めて、仕事を優先する事を理解出来る候補という事で…」
「まあ、確かに夜の方は譲歩するとは言いましたけれど、あまり鬱陶しいのも面倒ですわ」
一度、候補が全部消えてしまったなど、笑って言える内容ではないが、シルバーは気にする事もなく改めて条件を絞りなおしたようだった。
そんなシルバーの苦労も気にせずに、レディ・キャットはハーラルトに違う茶葉の紅茶を淹れて貰う。
そして、シルバーは一つの焼き菓子をテーブルに置く。
「まず、一人目の候補はエーベルハルド殿下。貴女の年下だからいい男に調教し直しやすいし、国としてもエーベルハルド殿下にしっかりした妃殿下が付けば安泰という事で、これが一番のお買い得だと思うよ」
ハーラルトに淹れて貰った新たな紅茶を、思わず吹き出しかけて噎せ、こほりっと小さな咳を扇の下で零しながら、レディ・キャットは本気かとシルバーに光の加減で翡翠を思わせる眼差しを向けた。
同じくテーブルを囲んでいるエーベルハルド殿下は、自らの名前が挙がった事に、驚きと焦りで頬を染めて言葉もなく挙動が不審になっていた。
そんな二人を気にすることもなく、シルバーは二つ目の菓子をテーブルに置く。
「次に二人目の候補は、今、証人になってくれている国王陛下。年齢的にもこちらも問題はないし、国王陛下の方としては願ったりかなったりじゃないかな。エーベルハルド殿下と同様、二人のどちらを選んでも王族に入る事になるから、キャット伯爵領は女性であっても貴女が管理出来るしね」
二人目の候補として挙がった国王は、思わずほくそ笑みかけるものの堪えて、レディ・キャットへと熱の籠った王族特有の青い眼差しを向ける。
シルバーの言う通り、王族に入れば所領は女の身であっても継承可能だという事に、レディ・キャットは僅かに柳眉を動かすものの、他の候補を聞いてから判断すべきだと気持ちを落ち着かせていた。




