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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第五章
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調停と婚姻Ⅰ

 第五章―調停と婚姻―


 ハスティ国で新たに見つかった遺跡。

 季節外れの疫病を流行らせた原因とされ、魔導士たちが行動を起こすのは早かった。

そんな素早い対応をした魔導士たちが調停を行い調査し、魔導教会の監視下に置く事が決まり調査していた魔導士の一行が区切りを付けて王都に戻ったのが、遺跡の調査に向かってから一週間後。


 一週間、魔導士たちの遺跡の調停に同行したエーベルハルド殿下は、様々な物を体験し元からの好奇心を充分に堪能した為に、王都に戻ってからは早々に政務に戻っていった。


 魔導士たちが王都へ帰還するのと共に、魔族の従属となっていたルイーダ殿下も王都へと秘密裡に運ばれた後、王宮の奥深くにある貴人用の牢獄へと封じられた。

 ルイーダ殿下に関しては、じっくりと司法の元裁かれる事が内密に決まっている。証言としての魔導士たちの言葉と、エーベルハルド殿下の見た物をレディ・キャットが影として国王へと報告を上げた為、王族とはいえ内密に処理される事はなくなったのだった。


 それぞれがやるべき事に戻っていった中、遺跡の調停が終わった為にハスティ国では疫病が完全に鎮圧されて調停が済んだと言っても過言ではなくなり、魔導士たちの帰途が検討され始めていた。


 そんな平穏が戻り出していたハスティ国の王宮の一室。

 正しくは王宮の牢獄にほど近い一室。

 シルバーとレディ・キャットが、豪奢でありながらも落ち着いたテーブルを挟み、これまた座り心地の良さそうな椅子に腰かけて優雅にお茶をしていた。


「色々ありましたわね。まだ、事後処理も済んでない事は山ほどありますけれど…」


 銀製のフォークで一口大にしたケーキを口にして、その美味さを堪能しながらレディ・キャットがほうっと溜息のような吐息を零す。

 別の種類のケーキを口にしながら、未だ髪の色が金色のままのシルバーが同意を示して瞳を閉じて数度頷く。

 こちらもまた、ケーキの美味さを堪能しながらだ。


「そうだね、レディ・キャットの調停が済んでいないし、事後処理の真っ最中とでもいう状態でもあるけれど」

「あ、チェルソ、足の爪はそのままでよろしくてよ。手の方は全部剥がしてしまったのでしょう?次は、両手の親指を押し潰していって頂戴」


 レディ・キャットとシルバーがお茶をしている部屋の隅で、鉄錆の臭いをさせてチェルソがレディ・キャットの指示に従い拷問と呼んで差し支えないような事を、ルイーダ殿下に行っていた。

 今回の騒動で、どのようにして魔族との接触を図ったのか、遺跡を見つけて何をやったのか、王位を狙って何処まで暗躍し、尚且つしようとしていたのかを情報を全部引き出す為に、影としてのレディ・キャットの仕事にシルバーが便乗するような形で遺跡での約束である、はぐれとしてのルイーダ殿下の情報を全て開示していた。

 但し、実際に手を下しているのは、シルバーとレディ・キャットに顎で使われているチェルソだったりするが。


「ふむ、親指はいいね。地味ながらも中々いい選択肢だ。跪け……」

「あまり、大きな傷をつけては、後から減刑されでもした時に面倒ですもの」


 体勢を変える為に、シルバーが一言呟き、魔導力でもって容易くルイーダ殿下の両手を床に付けさせる。

 レディ・キャットが、ふふふっと笑みながら白磁のカップを手にお茶を飲めば、空になったカップにハーラルトが給仕よろしくお茶を注ぐ。

 指示を受けたチェルソが女は怖いと思いながら、重力の魔導力を編み上げてルイーダ殿下の親指の上にそっと乗せた。じわじわと押されていく親指以前に、既に行われた両手の爪を剥ぐという行為により、痛みに弱いルイーダ殿下の泣き叫んでいた顔が更に絶望が濃くなった。


「結局のところ、王弟殿下に言われて領地の経営を勉強するべく、領地を見て回されていた間に、偶然遺跡を発見してそこで眠っていた魔族と遭遇し、国を代償とする代わりにはぐれになったって所で、魔導教会の方では必要な情報は大体出そろったかな。遺跡の力を本人は使えなくてはぐれとも呼べもしない魔導力の少なさから、もう一人のはぐれをつくる結果になったって事だし…」


 シルバーがケーキの生クリームをフォークですくい上げて、さもつまらない結果だったとばかりに首を振った後、生クリームを口にして気を取り直す。

 二人が、お茶会がてらにルイーダ殿下の詰問を行っているのは、初めにレディ・キャットが予想していた内容からして、大した情報が出てこないと判っていた為に気分転換になる物を一緒にしないとやってられないという、二人の意見の一致からであった。


「そうですわねー……疫病に関しても、遺跡で眠っていた魔族の魔導力を遺跡が吸ってしまったのを、もう一人のはぐれがルイーダ殿下に指示されて流行らせたってことですし、偶然の積み重ねを使って自らが王位を継ぐにふさわしいとか思ってしまったなんて、我が国の恥ですわ」

「そうそう、王位といえばルド殿下の暗殺も目論んでいたのだろう?疫病が流行ったから、それに感染させて纏めてやってしまえと」


 レディ・キャットが、影としてやる仕事にしてはぬるいとばかりに、盛大にケーキやら様々に用意させたお菓子を口にしながら、どうしてくれようかこの馬鹿とばかりの視線を、ちらりとルイーダ殿下に一瞬向ける。


「レディ・キャット、次は何を聞き出すんっすかー?」


 程よくルイーダ殿下の両親指を押している魔導力が、痛みに変わる前にとチェルソが次の指示を仰ぐ。チェルソも、拷問のような詰問には全く抵抗なく表情を変える事なく行っていた。


「そうね、エーベルハルド殿下の暗殺を目論んでいたのは判ったから、陛下の暗殺まで考えていたのか…とかかしら」


 給仕に徹しているハーラルトが煎れたお茶を口にして、お菓子の味を口から払拭させて、他のケーキを取り分けるついでにレディ・キャットが答える。

 この部屋には、行われていることが事だけに、侍女を入れるわけにもいかず、ハーラルトが給仕をし、チェルソがルイーダ殿下への実行を行い、シルバーは魔導教会の長としてはぐれの判断をし、レディ・キャットが影として国王の権限の元に情報を集めるという四人と、罪人一人という特殊な状況になっていた。


「という事らしいっすから、さくさく話してくれないと、親指にかかってる力が増すっすよー」


 チェルソが、やっている事とは正反対の声音でルイーダ殿下に言うものの、すでに親指を強い力で押し潰されているルイーダ殿下からは、情報よりも絶叫や呻き声しか出なかった。

 そんな悲鳴や絶叫を気にする事なく、部屋の中央では変わらずおっとりとお茶会が開かれている。


「そういえば、私の調停はどうなってるのかしら?」

「ああ、検討は幾つあってね、最終的にレディ・キャットがどれを選ぶかという所までは詰めてあるよ」

「あら、楽しみ。どんな候補が上がったのかしら」


 笑顔でシルバーとレディ・キャットが会話していれば、一際大きな悲鳴の後、ぐしゃりっという何かが潰れたような音がした。


「あ、加減間違った…」


 チェルソの声が聞こえた事で、先程の潰れたような音にすら反応しなかった二人がチェルソへと視線を向ける。

 そこには、両手の親指が潰れて意識を失っているルイーダ殿下が転がっているという光景があった。


「チェルソ、左よりも右の魔導が長けているくせに、加減を間違うなど重力魔導は相変わらず苦手だな」


 ハーラルトがチェルソに溜息混じりの声をかけるが、シルバーとレディ・キャットは大して気にした様子もなかった。

 ルイーダ殿下からの情報は、もうほぼ絞りつくしたと思っていたからだ。

 ただ、此処でのお茶会が終わったという感想を抱いただけであった。


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