第4話 国王からの特命
王城からの使者が屋敷に来たのは、婚約破棄から一週間後のことだった。
「国王陛下が、クレア・ヴィクトリア様に直接お話ししたいとのことです」
シリルが使者を丁重に帰してから、私のもとへ戻ってきた。
「お嬢様。予測通りでしたね」
「ええ」
スコーンを置き、ナプキンで指先を拭う。ゴミ箱が満杯になるのを、国王陛下もついに放置できなくなったらしい。
「では参りましょうか」
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謁見室には、国王ただ一人が待っていた。
騎士も侍従も置かず、扉を閉め切って。それだけで、この話がどれほど秘密裏のものか伝わってくる。
「来てくれたか、クレア殿」
国王の顔には疲労の色が濃かった。あの婚約破棄の日から、ずっとそうなのかもしれない。
「愚息が迷惑をかけた。改めて詫びる」
「お気になさらず。むしろ、身軽になりましたわ」
国王は苦笑いを浮かべ、それからゆっくりと口を開いた。
「単刀直入に言う。王家直属の掃除人として、引き続き動いてもらいたい」
やはり、そういうことか。
「婚約という名目がなくなった今、表向きの立場をどうするかが問題ですわね」
「ああ。だから今回は、正式な特命として依頼する」
国王が机の上に一通の書状を置いた。王家の紋章で封がされている。
「現在、ガルベス子爵を中心とした腐敗貴族の動きが活発化している。国庫への不正流用、他国との不審な接触——放置すれば国が傾く」
「存じております」
「お前が婚約者として目を光らせていたから、抑えられていた。それが外れた途端にこれだ」
国王が深くため息をついた。
「頼む、クレア殿。お前の力が必要だ」
私は書状を手に取り、封を確かめた。王家の全権委任。動けるのは私とその従者のみ、という条件。表の顔は引き続き「男爵令嬢」のまま。
「一つだけ、確認させてください」
「なんだ」
「おそうじの方法については、私に一任していただけますか。燃やすも、残すも、私が判断する」
国王は一瞬だけ躊躇したが、すぐに頷いた。
「任せる。ただし、王都が消し飛ぶような掃除だけは、勘弁してくれ」
「それは状況次第ですわ」
私は書状をシリルに渡し、立ち上がった。
「では、大掃除を始めましょうか」
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屋敷に戻る馬車の中で、シリルが書状の内容を確認しながら口を開いた。
「まず手をつけるべき場所は、どちらをお考えですか」
「ガルベス子爵の周辺から洗いますわ。あのハエの親玉を先に片付ければ、残りは自然と散らばる」
「では、情報の整理から始めましょう。証拠品の確保を優先いたします」
「ええ。燃やす前に、分別は済ませておかないとね」
リタがハサミをチャキッと鳴らした。準備完了、という合図だ。
窓の外を流れる王都の景色を眺めながら、私は静かに考える。
ここからが、本当のおそうじだ。




