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悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


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第39話 帰還

王都への道は、四日かかった。


馬車の中は静かだった。ネーベル・アルバはほとんど話さなかった。窓の外を見ているか、目を閉じているかのどちらかだ。七年ぶりに動いている。色々なものが、頭の中を通り過ぎているのだろう。


私も、多くは話さなかった。


手の中のボタンを、ときどき確かめた。白い、小さなボタン。冥界の岩場で拾ってきた。母が残していったもの。


「お嬢様」二日目の夜、宿でシリルが言った。「セドゥン商会の動きに変化があったようです」


「もう動いていますか」


「王都の支部が、急に人員を入れ替えたという情報が入りました。フォル・ネビュラの件を調べていた財務局の担当官が、不審な接触を受けたとも」


「焦っていますわね」


「封印が解けたことが、何らかの形で伝わったのかもしれません。組織が動き始めています」


「こちらも急ぎますわ。王都に着いたら、すぐに国王に会います」


-----


王都に入ったのは、四日目の夕方だった。


久しぶりの王都の空気だ。旅から帰るたびに、少し違う顔をしている気がする。今日は少し緊張している感じがした。街の人々の動きが、どこかせわしない。


屋敷には寄らず、そのまま王城へ向かった。


国王は、使いを送ってもいないのに謁見室で待っていた。


「来ると思っていた」


「冥界から帰りましたわ。それから、連れてきた方がいます」


ネーベル・アルバが一歩前に出た。国王が男を見た。その顔に、様々な感情が混ざった。


「……生きていたか」


「おかげさまで」ネーベル・アルバが静かに言った。「陛下。娘に会わせてもらえますか」


国王がしばらく黙っていた。それから、侍従に何かを告げた。


私たちは廊下で待った。十分ほどして、足音が聞こえてきた。


廊下の先から来たのは、二十代の若い女性だった。旅装ではなく、王城に仕える者の服を着ている。顔立ちがネーベル・アルバに似ていた。


女性が立ち止まった。それから、小走りで近づいてきた。


「父さん」


ネーベル・アルバが一歩も動けなかった。娘が腕の中に飛び込んできて、それでも動けなかった。


私はその場から少し離れた。シリルも、リタも、黙って別の方向を向いた。


-----


しばらくして、国王が私の隣に来た。


「冥界で、何があったか」


「封印の石を解除しました。門が開きました」


「気づいたか。あのボタンのことも」


「ええ。教えてもらえますか。母のことを」


国王が長い息を吐いた。今夜は話す気でいるのだとわかった。


「長い話になる」


「構いませんわ」


「……お前の母は、この国の始末屋だった。お前と同じように、私の特命で動いていた。冥界の封印を見つけたのも彼女だ。ただ、解除できなかった。その後——」


「その後は?」


「別の仕事で、命を落とした。お前が三歳の頃だ」


私は少し間を置いた。


「始末屋の仕事で、ですか」


「そうだ。だからお前に全部を話すのを、ずっとためらっていた。お前も同じ道を歩いていると知りながら」


「今更ですわね」


「……そうだな」


国王が珍しく、苦笑した。


遠くで、エルナとネーベル・アルバが話している声が聞こえた。言葉は聞き取れないが、七年ぶりの会話だとわかる声の調子だった。


「次は黒幕を探しますわ。封印を置いた者です」


「わかっている。ただ、慎重に動いてくれ。相手は百年以上生きている可能性がある。普通の人間ではない」


「普通のおそうじではないかもしれませんわね」


「そうだ」


私は廊下の窓から、夜の王都を見た。灯りが点々と並んでいる。


帰り道に屋敷に戻ると、料理人が夕食を用意して待っていた。旅からの帰宅を予測していたのか、温かいシチューと焼きたてのパンが並んでいた。


「おかえりなさいませ」


「ただいま」


シチューを一口食べた。野菜と肉の旨みが、じっくりと染み出た味だった。


第四章が終わった。次は、百年以上続いてきた澱の根元を探す。それが最後の仕事だ。

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