第40話 冥界清掃完了・最後の汚れへ
翌朝、国王への正式な報告を行った。
冥界での一部始終。封印の石の解除。門が開いたこと。死者たちが流れ始めたこと。そして、石を置いた者が百年以上生きている可能性があること。
国王は黙って聞いていた。報告が終わると、しばらく考えてから口を開いた。
「財務局の暗号解読が完了した。フォル・ネビュラから持ち帰った書類の全容がわかった」
「何が書かれていましたか」
「各国の窓口人物の一覧と、資金の流れだ。ガルベス子爵も、ヴァルタス猊下も、全員が記載されていた。そして——指示を出している者の記号が、全て同じだった」
「封印を置いた者と同じ存在、ということですわね」
「そう思われる。百年以上前から、この世界の各所に腐敗の種を蒔き続けてきた何かがいる」
「何者ですか」
「わからない。人間ではないかもしれない。ただ、天界との接点がある可能性を示す記号が、書類の中に一箇所だけあった」
天界。第五章の舞台が、そこに決まった。
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午後、ネーベル・アルバとエルナが宿を訪ねてきた。
二人並んで座ると、顔立ちの似ていることがよくわかった。エルナは二十代の半ばくらいで、父親より目に力がある。七年間、王城で過ごしてきた者の顔だ。
「お礼を言いたくて」エルナが言った。「父を見つけてくれて、ありがとうございます」
「仕事の流れでしたわ」
「それでも」
エルナが少し間を置いてから、続けた。
「私も、手伝えることがあれば手伝いたいと思っています。父が七年間抱えてきたこと、私にも関係がありますから」
私はエルナを見た。王城で七年間育った。国王に近い場所にいた。この先の仕事に、役に立つ場面があるかもしれない。
「必要な時に、声をかけますわ」
「はい」
ネーベル・アルバが静かに言った。「暗号の解読で力になれることがあれば、いつでも。七年間、何もできなかった分を返したい」
「それも、必要な時に」
二人が帰った後、シリルが言った。
「戦力が増えましたね」
「そうですわね。ただ、次の場所は天界です。人間が踏み込める場所かどうか、まだわかりません」
「冥界も踏み込めた場所ではありませんでしたが」
「それはそうですわ」
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夕方、私は一人で屋敷のサロンに座っていた。
窓の外に、王都の夕暮れが広がっている。橙色の光が屋根を染めていく。いつもの景色だ。
手の中のボタンを眺めた。白い、小さなボタン。母が百年前に冥界の岩場に置いていったもの。
次の者へ渡す伝言として。
そういうことだったのかもしれない。私への手紙を、母は書けなかった。でも、これを残した。解除の記号の場所を示すために。娘がいつかここに来ると、知っていたかどうかはわからない。ただ、誰かが来た時のために。
「第四章が終わりましたわ」
誰もいないサロンで、声に出してみた。
冥界の門は開いた。百年分の澱が流れ始めた。次は、その澱を作り続けてきた何かを探す。天界にいると思われる、百年以上生きている何かを。
それが、最後のおそうじだ。
シリルが茶を持ってきた。今日はほうじ茶だ。香ばしい香りが、サロンに広がった。
「次の出発は、いつ頃お考えですか」
「少し準備が必要ですわ。天界への入口がどこにあるか、まだわかっていない。国王と、ネーベル・アルバと、もう一度話し合ってから」
「では、少しゆっくりできますね」
「ゆっくりはしませんわ。調べることが山積みですもの」
シリルが笑顔で頷いた。
ほうじ茶を一口飲んだ。温かくて、深みのある味がした。
第四章が終わった。次は最後の章だ。天界で何が待っているかはわからない。でも、今まで通りやるだけだ。
汚れを見つけて、分別して、焼却処分。それだけですわ。




