表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

第33話 モルトという街

出発したのは、準備を終えた六日後だった。


王都からモルトまでは、陸路で四日かかる。聖教国への道とは別方向で、内陸に向かって進む。景色は少しずつ変わり、森が深くなり、空気が重くなっていく。


「モルトはどんな街ですか」


馬車の中でシリルに聞くと、手帳を開いてから答えた。


「内陸の商業都市です。東西南北の街道が交わる場所にあるため、昔から物流の中継地として栄えてきました。人口は王都の半分ほど。ただ、通過する商人が多いため、実態より賑やかに見えます」


「セドゥン商会の本拠地でしたわね」


「はい。フォル・ネビュラが末端の倉庫なら、モルトが本体です。ただ、フォル・ネビュラの倉庫を封鎖したことは、もう伝わっているでしょうから、警戒は高いと思います」


「動きを変えているかもしれませんわね」


「可能性は高いです。ただ、組織の中心がここにある以上、完全に引き払うことはできない」


リタが窓の外を確認した。後ろに尾行はない。今のところは。


-----


モルトに入ったのは、四日目の夕方だった。


フォル・ネビュラの霧とも、聖教国の白とも違う、雑然とした活気のある街だった。荷馬車が行き交い、様々な言語が混ざって聞こえてくる。物売りの声、鍛冶の音、どこかから漂ってくる食べ物の匂い。


「賑やかですわね」


「隠れるには都合のいい場所です。人が多すぎて、誰が誰かわからない」


宿は街の中心から少し外れた、目立たない場所を選んだ。フォル・ネビュラの時と同じ要領だ。


荷を解いてから、私はシリルに聞いた。


「セドゥン商会の事務所はどこですか」


「街の東側に、表向きの商会事務所があります。ただ、本当の拠点は別の場所だと思われます。今夜のうちに下調べをしておきます」


「ネーベル・アルバの痕跡は?」


「それも含めて、当たってみます」


-----


翌朝、シリルが持ち帰った情報は、予想より具体的だった。


「セドゥン商会の事務所は今も動いています。フォル・ネビュラの件は知っているはずですが、表向きは通常営業を続けている。ただ、出入りする人間が減った」


「縮小しているのですわね」


「そして、こちらが気になる話です」


シリルが一枚のメモを出した。


「街の外れに、ここ半年で新しく建てられた建物があります。商会の名義ではなく、個人の名義で登記されている。出入りする人間は少なく、夜だけ灯りがつく」


「誰の名義ですか」


「アルバという名前です」


私はしばらく黙った。


「ネーベル・アルバが、この街にいる可能性がある」


「あるいは、彼の名前を使っている誰かが。どちらかはわかりません」


「確認しますわ」


その日の午後、私は一人で街の外れに向かった。シリルが言っていた建物は、古い石造りの民家が並ぶ路地の奥にあった。新しく建てられたというより、古い建物を改装した感じだ。


窓に灯りはない。人の気配がするかどうか、しばらく外から確かめた。


かすかに、煙の匂いがした。暖炉か、ランプか。誰かがいる。


私はノックした。


しばらく間があった。それから、扉が少しだけ開いた。


中から覗いたのは、四十代と思しき男だった。痩せていて、目の下に深い隈がある。長い旅をしてきた人間の顔だ。


男が私を見た。それから、小声で言った。


「……王都から来ましたか」


「ええ」


「クレア・ヴィクトリア、ですか」


私は少し驚いた。


「そうですが、あなたは」


男が扉を少し広げた。


「ネーベル・アルバです。あなたが来ることを、待っていました」


宿に戻ってから、シリルが用意していた温かいスープを飲んだ。今日は何も考えられなかった。ただ、温かいものが体に必要だった。


スープを一口一口飲みながら、私は明日ネーベル・アルバと話すことを考えた。七年間消えていた男が、なぜ私を待っていたのか。答えは、明日聞けばわかる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ