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悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


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第31話 冥界への入口

王都に戻ったのは、聖教国を出てから五日後だった。


屋敷に荷を解いて、翌朝すぐに国王への報告に向かった。聖教国での一部始終、セルダ大司教に証拠を渡したこと、ヴァルタス猊下の処理を内部に委ねたこと。全部話すと、国王は長い間黙っていた。


「炎を使わなかったのか」


「必要ありませんでしたわ。内側に良心のある人間がいたので」


「……そうか」


国王が何か言いたそうな顔をしたが、結局頷くだけだった。


「ご苦労だった。フォル・ネビュラの暗号の解読は、財務局の専門官がほぼ終えている。報告書が上がり次第、渡す」


「ありがとうございます。それから、次の件についてご相談があります」


「ネーベル・アルバの件か」


「ええ。デイン号がモルト方面に向かった。ネーベル・アルバもそちらにいる可能性があります。ただ——」


私は少し間を置いてから、続けた。


「モルトは聖教国への入口でもあります。陸路で追えば、今度は冥界の領域に入ることになるかもしれません」


国王の表情が、微かに動いた。


「冥界のことを、知っているのか」


「噂は聞いていますわ。この世と死者の世界の境が薄い場所がある、と。モルトはその一つだと」


「……そうだ」


国王が立ち上がり、部屋の奥の棚から古い地図を取り出した。広げると、大陸の地形が描かれている。モルトの位置に、小さな印がついていた。


「その印は?」


「冥界への入口だ。昔から知られている場所だが、通常の人間が踏み込めば戻れない。ただ——」


国王がこちらを見た。


「お前なら、話が別かもしれない」


-----


謁見室を出てから、シリルが静かに言った。


「冥界、ですか」


「驚いていますか」


「少し。ただ、考えてみれば自然な流れかもしれません。ガルベス子爵から始まった糸が、フォル・ネビュラ、聖教国を経て、冥界まで続いている」


「汚れというのは、見えないところに流れ込むものですわ。排水管と同じです。表に出てこない場所に、長年の澱が溜まっている」


「では、次は排水管のお掃除ですね」


「ええ。ただ、準備が必要ですわ。冥界は、これまでとは違う場所です」


宿に戻る道すがら、私は空を見上げた。王都の空は今日も晴れていて、雲一つない。


この世の空の向こうに、死者たちの世界がある。そこで何かが詰まっている。誰かが意図的に、循環を妨げている。


それを取り除くのが、次の仕事だ。


-----


屋敷に戻ると、料理人が腕を振るって夕食を用意してくれていた。


旅から帰った日の夕食は、いつも少し豪華だ。今日は牛肉の煮込みと、たっぷりの野菜、それから焼きたてのパン。


「お帰りなさいませ、お嬢様。今日はゆっくりなさってください」


「ありがとう。少しだけね」


シリルが赤ワインを一杯注いでくれた。


「次の出発まで、どのくらいですか」


「一週間は準備に使いますわ。冥界に入るには、普通の荷物では足りない。何が必要かを調べてから動く」


「どこで調べますか」


「国王が知っているはずですわ。明後日、もう一度話を聞きに行きます」


煮込みを一口食べると、じっくり火を通した肉の旨みが口に広がった。長い旅の後の、王都の味だ。


リタが静かに食事をしている。その横顔を見ながら、私は思った。冥界に連れていくのは、二人で大丈夫なのだろうか。あの場所は、生きている人間が踏み込む場所ではないかもしれない。


でも、一人で行くつもりもない。


「シリル、リタ」


「はい」


「次の場所は、これまでとは少し違いますわ。危ないと思ったら、いつでも言ってちょうだい」


シリルが笑顔のまま答えた。


「お嬢様が危ない場所に一人で行かせる方が、私には危険に感じますが」


リタがハサミをチャキッと鳴らした。


「……わかりましたわ」


ワインを一口飲んだ。少し渋くて、深い味がした。第四章が、静かに始まろうとしていた。

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