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悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


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第18話 倉庫の仕上げ

ネーベル・アルバという名前を手に入れた翌日、私たちは動いた。


セドゥン商会の倉庫を処理するのに、炎は使わないと決めていた。燃やしてしまえば証拠も消える。それに、この港で目立つことをすれば、モルトにいる本丸が気づいて逃げる。ここはあくまで中継地だ。静かに、丁寧に片付ける。


「シリル、財務局への告発状は用意できていますか」


「昨夜のうちに書き上げました。倉庫から回収した書類の写しも添付してあります。王都の財務局宛と、フォル・ネビュラの地方行政府宛、二通です」


「送り先に信頼できる人間はいますか」


「地方行政府の副長官が、以前ガルベス子爵の件で協力してくれた財務局の役人と繋がっています。その線で動きます」


「では、今日中に出してちょうだい」


「かしこまりました」


リタがハサミをチャキッと鳴らした。自分の担当は別にある、という意思表示だ。


「リタは、倉庫の見張りを今夜も頼みます。告発状が届くまでの間、証拠を持ち出される前に動きを把握しておきたい」


リタがコクリと頷いた。


-----


午後、シリルが告発状を出しに行っている間、私はヤンスと話した。


「倉庫が動けなくなった後、この港はどうなりますか」


ヤンスが少し考えてから答えた。


「正直、わかりません。あの倉庫のおかげで潤っていた人間もいるので、反発する者も出るかもしれない。でも、長い目で見れば、あんな汚れがなくなった方がいい」


「そうですわね」


「あなたたちは、また来ることはありますか」


「L・Aの正体は掴みましたが、まだ仕事は終わっていません。いつかまた、必要が出れば」


ヤンスが小さく笑った。


「その時はまた、差し入れを用意しておきます」


夕方、シリルが戻ってきた。告発状は無事に届き、地方行政府が動く準備を始めているという。早ければ明後日には、倉庫に調査が入る見込みだ。


「思ったより早いですわね」


「副長官が動いてくれました。この港でも、倉庫のことを快く思っていない人間は多かったようです」


「汚れを取りたいと思っていた人間が、もともといたということですわ」


「おっしゃる通りです」


-----


その夜、リタから報告が入った。


倉庫から二人の男が大量の書類を運び出そうとしているのを確認した、という内容だった。告発状が動いていることを、内側の誰かが嗅ぎつけたのかもしれない。


「追いますか」


「いいえ」


私はすぐに答えた。


「持ち出させなさい。行き先を確認するだけでいい。焦って追えば、尻尾を切って逃げる」


リタが再び出ていった。


シリルが静かに言った。「行き先は、モルトですかね」


「おそらく。そちらは次の話ですわ」


二時間後、リタが戻ってきた。男たちは港の南側の桟橋から小型船に乗り、南へ出港したという。モルト方面への航路だ。


「予想通りですわね」


「はい。ただ、船の名前は確認できました。デイン号です」


「覚えておきなさい」


翌日、地方行政府の調査官が倉庫に入った。残っていた書類と、幽霊会社への送金記録が押さえられた。セドゥン商会の倉庫は、封鎖された。


私たちの仕事は、ここまでだ。


宿をチェックアウトする朝、ヤンスが桟橋まで見送りに来てくれた。差し入れは、港で買った干した貝だった。


「道中、気をつけて」


「ありがとう。この港が、少し綺麗になるといいですわ」


馬車に乗り込みながら、私は霧の中に霞む港を振り返った。


フォル・ネビュラでの仕事は終わった。次は、デイン号が向かったモルト——そして、その先にいるネーベル・アルバへと続いていく。


霧の港を後にする馬車の中で、シリルが温かい茶を差し出してくれた。移動中でも、茶だけは用意する男だ。


「次の舞台は、聖教国でしたね」


「ええ。でもその前に、王都に一度戻る必要がありますわ。国王への報告がまだです」


「では、少しだけゆっくりできますね」


「ゆっくり? おそうじに、ゆっくりなんてありませんわよ」


シリルが完璧な笑顔で頷いた。霧の港が、窓の向こうで白く遠ざかっていった。

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