第17話 老人の話
翌朝、私は再びラマン・ブックスを訪れた。
今度は一人ではなく、シリルを連れていた。観光客のふりをやめる代わりに、正面から話すつもりだった。遠回りをしても、この老人は口を割らないと思ったからだ。
扉を開けると、ゾーラ・ペイジは昨日と同じ椅子に座っていた。私を見て、少しだけ目を細めた。
「また来ましたか」
「少し、正直にお話がしたくて」
「昨日も正直だったのでは?」
「半分だけ、ですわ」
老人は本を閉じた。シリルが扉に鍵をかけた。老人はそれを見ても、慌てなかった。
「やはり、ただの旅人ではなかったですね」
「ええ。王家直属の始末屋ですわ。L・Aという人物を追っています」
老人が長い沈黙の後、静かに言った。
「……その名前を口にする人間が来たのは、久しぶりだ」
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「私はL・Aを知っている」
老人がゆっくりと話し始めた。
「ただし、知っているのは七年前までのことだ。今がどこにいるのか、今も同じことをしているのかは、わからない」
「七年前、何があったのですか」
「あの人は、この港で働いていた。商人ではなく、研究者だった。古い言語と暗号の専門家で、各国を旅しながら文書の解読をして生計を立てていた。私の店にもよく来ていた」
「どんな人物でしたか」
「誠実な人間だった。少なくとも、私にはそう見えた。だが、ある時から様子が変わり始めた。金回りがよくなり、来る客が変わった。あの倉庫——セドゥン商会との繋がりも、その頃からだ」
「組織に取り込まれた、ということですか」
「望んで入ったのか、引き込まれたのかは知らない。ただ、最後に会った時、彼は疲れた顔をしていた。やめたいが、やめられないと言っていた」
私はしばらく考えてから、聞いた。
「名前は何というのですか」
「ネーベル・アルバ。それが彼の名前だ」
「今はどこに?」
「七年前に、忽然と姿を消した。娘がいたが、彼女も今はどこにいるかわからない。娘の名前はエルナ。当時まだ幼かった」
老人の目に、小さな後悔の色が浮かんだ。
「私にできることがあったかもしれないが、何もしなかった。それだけが、今でも引っかかっている」
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店を出てから、シリルが静かに言った。
「ネーベル・アルバ。L・Aのイニシャルと一致します」
「ええ。ただ、七年前に姿を消している」
「死んでいる可能性も?」
「あるいは、身を隠している。どちらにせよ、今も誰かがあの倉庫を動かしている。ネーベル・アルバ本人か、彼の後を継いだ誰かか」
「エルナという娘の行方も気になりますね」
「それはしばらく置いておきましょう。今は倉庫の処理を先に済ませますわ」
宿への道を歩きながら、私は霧の空を見上げた。フォル・ネビュラに来てから、ずっと白かった空が、今日は少しだけ青みを帯びている。
L・A、ネーベル・アルバ。名前がわかった。次は、その人物が今どこにいるかを突き止める。
それはおそらく、この港の外の話になる。
宿に戻ると、ヤンスが食事を差し入れてくれていた。揚げた魚と、港の名物だという平たいパンだ。素朴で、温かかった。
「お口に合うといいのですが」
「十分ですわ。ありがとう」
魚を一口食べると、塩と油の香りが口に広がった。港の味がした。この町で過ごす時間も、残りわずかになってきた。




