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悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


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第19話 帰り道の整理

王都への帰路は、五日かかった。


行きと同じ道を戻るだけだが、馬車の中の空気は行きとは少し違った。持ち帰った書類が、座席の下の鞄の中に収まっている。それだけで、何かが変わった感じがする。


「整理しておきたいことがありますわ」


二日目の昼過ぎ、私は口を開いた。シリルが手帳を取り出した。


「フォル・ネビュラでわかったこと。セドゥン商会は八年前から動いている。王都側の窓口はガルベス子爵で、子爵はすでに失脚した。倉庫は封鎖された。ここまでは片付いた」


「はい」


「わかっていないこと。L・A——ネーベル・アルバの現在の居場所と生死。七年前に姿を消した理由。デイン号が運んだ書類の行き先。そして、娘のエルナの行方」


「一度に追うには、多いですね」


「ええ。だから優先順位をつけますわ」


私は窓の外を眺めた。フォル・ネビュラを出てから、空が少しずつ明るくなっている。霧のない空は、久しぶりに見る気がした。


「まず、国王への報告。持ち帰った書類を渡して、王都側で動ける範囲を広げてもらう。暗号の解読も、専門の人間に頼んだ方が早い」


「財務局の協力を仰ぐ形でしょうか」


「ええ。それから次の章の準備ですわ」


「聖教国ですね」


「ネーベル・アルバが聖教国と繋がっている可能性は?」


シリルが少し考えてから答えた。


「書類の中に、聖教国の言語で書かれた文書が一点ありました。内容は暗号で読めませんでしたが、接点がないとは言えません」


「では、聖教国での仕事とネーベル・アルバの件は、繋がっている可能性がある」


「そう考えると、次の章は単なる別件ではありませんね」


「汚れというのは、一箇所だけ綺麗にしても意味がない。根が繋がっていることが多いですわ」


-----


四日目の夜、宿に泊まった小さな町で、思わぬことがあった。


夕食を終えて部屋に戻ろうとした時、宿の廊下で一人の若い女性とすれ違った。二十代の前半くらいで、旅装をしている。荷物が多く、一人で動いている様子だった。


特に気にとめるつもりはなかった。だが、すれ違いざまに彼女が小さく呟いた言葉が、耳に残った。


「……フォル・ネビュラから、遠い」


私は振り返ったが、女性はもう部屋の中に消えていた。


翌朝、女性の姿は宿になかった。早く出発したのだろう。


「気になりますか」シリルが静かに聞いた。


「少しだけ」


「名前を確認できませんでしたが、宿の帳簿に記録が残っているかもしれません」


「いいえ、追わなくていいわ。今は王都への報告が先です」


でも、フォル・ネビュラから遠い、という言葉が頭の片隅に残った。エルナ・アルバのことを、なぜか思い出した。


-----


王都に着いたのは、五日目の夕暮れ時だった。


ヴィクトリア家の屋敷の門をくぐった瞬間、メイドたちの声が揃った。


「おかえりなさいませ、お嬢様!」


「ただいま。屋敷の空気は綺麗に保てていましたか」


「もちろんです!」


私は深く息を吸った。慣れ親しんだ屋敷の空気だ。港の潮と霧の匂いとは全く違う、落ち着いた香り。


シリルが荷物を受け取りながら言った。


「明日、国王陛下への報告の場を設けます。書類の整理は今夜のうちに」


「ええ。でも今夜は少し休ませてちょうだい」


「もちろんです」


厨房から、焼きたてのタルトの香りが漂ってきた。留守の間に、料理人が用意してくれていたらしい。テーブルに着くと、温かいダージリンと一緒に、きれいに切り分けられたタルトが並んでいた。


一口食べると、甘酸っぱい林檎の味が口に広がった。


「やはり、王都の菓子は格別ですわね」


「港の魚も悪くありませんでしたが」


「それはそれ、これはこれ」


リタが静かに自分の分を食べている。その横顔が、いつもより少しだけ穏やかに見えた。長い旅が終わった、ということなのかもしれない。


次の場所へ向かうまで、少しだけ間がある。その間に、しっかりと備えを整えておかなければ。

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