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悪役令嬢は、おそうじが得意。 〜婚約破棄されましたが、塵一つ残さず 『焼却処分』いたしますわ〜  作者: くまたろう


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第12話 霧の中の足跡

翌朝、霧は濃かった。


窓の外が白く霞んでいて、桟橋の先が見えない。港町の朝はそれでも早く、外では荷運びの声や船のエンジン音が聞こえている。


シリルが朝食を運んできた。厚焼きの卵と、昨夜と同じパン。それから現地の茶。今日は蜂蜜を少し垂らしてある。


「昨夜のうちに、倉庫の周辺を調べてまいりました」


「リタが?」


「はい。私は宿で情報を整理しておりました」


リタが無言で地図を広げた。港の周辺が手書きで細かく描かれている。昨夜あの倉庫の前に立っていた男の位置、見張りの交代時間、裏口の場所まで書き込まれていた。


「相変わらず仕事が早いわね、リタ」


リタはコクリと頷いた。それだけだった。


「倉庫の名義はセドゥン商会というところです。王都にも支部があるようですが、実態はほぼここだけで動いている。表向きは海産物の輸出入業者ですが」


「裏は?」


「不明です。ただ、出入りする人間の顔触れが海産物業者らしくない。旅装の外国人が多く、滞在時間が短い」


情報の中継地点として使っている可能性がある。あるいは、何かを保管する場所か。


「まず、内側を見る必要がありますわね」


「ただ、強引に入るのは得策ではありません。港の人間は外から来た者に敏感です。怪しまれれば、相手は動きを止める」


「わかっているわ。急いで汚れを擦ると、布が傷むものですもの」




午前中は、港の市場を歩いた。


三人でバラバラに動く。シリルは商人たちと世間話をしながら情報を集め、リタは港の隅々を無言で観察し、私は魚を売る老婆の屋台で時間を潰した。


「お嬢さん、王都から来たのかい?」


「ええ、少し休暇をいただいて」


「珍しいね。こんな霧ばっかりの場所に、わざわざ来る人も少ないのに」


老婆が笑いながら、焼いた小魚を紙に包んで渡してくれた。受け取って一口かじると、塩が効いていてうまい。


「霧が好きなんですわ。何でも隠してくれそうで」


「そりゃ、隠したいものがある人間にはね」


老婆が意味ありげに笑った。


「この港、昔からそういう人間が多いのかしら」


「まあねえ。昔よりは減ったけど、それでもあの倉庫あたりはねえ」


視線が、昨夜の石造りの倉庫の方向に向いた。


「何かご存知ですか」


「あたしみたいな婆には関係ない話さ。でも、あそこに出入りする連中は、みんな目が死んでるよ。仕事でやっている顔じゃない。追い詰められた顔だ」




昼過ぎに三人で合流した。


シリルが集めた情報によると、セドゥン商会の倉庫には週に二度、決まった時間に荷が入る。次は明後日の夜だという。


「その荷の中身を確認できれば、動く理由になります」


「二日、待ちますわ」


「その間に、もう少し人脈を作っておきます。港には必ず、口の軽い人間がいますから」


リタが地図に新しい書き込みをした。倉庫の裏手に、人が一人通れる程度の路地があるらしい。


「当日は、その路地から入る形ですか」


リタが頷いた。


「では、二日後まで私たちはただの旅行者ですわ」


夕方、宿の食堂で港の煮込み料理を食べた。貝と野菜を長時間煮込んだもので、体に染み渡る味がした。シリルが地元の茶を追加で注文してくれた。昨日より少し甘い種類だ。


「お口に合いましたか」


「ええ。悪くありませんわ」


窓の外では、霧がまた濃くなり始めていた。倉庫の輪郭が、じわじわと白い靄に包まれていく。


二日後、あの中に何があるのかを確かめる。それまでは、静かに待つだけだ。




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