第10話 王都大掃除完了・次の汚れへ
国王への最終報告は、穏やかな午前中に行われた。
謁見室には前回と同じく、国王ただ一人。ただし今日の顔には、あの時の疲労の色はなかった。
「見事だった、クレア殿」
「お役に立てて光栄ですわ」
「ガルベス子爵は財務局の管理下に置かれ、連座した貴族も複数名が処分を受けた。ダスト侯爵家も不正に取得した利権を返還した。これほど短期間で片付けられるとは思っていなかった」
「汚れは早めに落とした方が、楽ですから」
国王が苦笑した。
「相変わらずだな」
しばらく間があってから、国王は少し声のトーンを落とした。
「一つ、聞いてもいいか」
「どうぞ」
「モモ・ダスト嬢を、焼却しなかった理由は」
私は少し考えてから答えた。
「燃やす必要がなかったからです。彼女は利権のために動いていた。それを取り上げれば、脅威ではなくなる。炎は、他に手段がない時に使うものですわ」
「なるほど」
国王は深く頷いた。
「お前が始末屋として優れているのは、炎の力だけではないな」
「分別が大事、ということですわ。燃やしていいものと、そうでないものを見極める。それがおそうじの基本です」
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屋敷に戻ると、シリルとリタが珍しく揃ってサロンで待っていた。テーブルの上には、いつもより少し豪華なティーセットが並んでいる。
「お疲れ様でした、お嬢様」
「まあ、気を遣ってくれたのね」
「第一章が終わりましたので」
シリルがそう言って、静かに紅茶を注いだ。今日の茶葉は、上質なダージリンだ。香りだけで気分が上がる。
リタが無言でカップを私の前に置いた。それだけだったが、彼女なりの労いだとわかった。
私はゆっくりと一口飲んだ。温かくて、すっきりとした渋みがある。疲れた体に染み渡る。
「ガルベス子爵、モモ・ダスト、連座した貴族たち。国内の大きな汚れは、ひとまず片付きましたわ」
「はい。王都の空気が、随分と綺麗になりました」
「でも」
私はカップをテーブルに置き、窓の外を見た。
「ガルベス子爵が繋がっていた外国の糸は、まだ切れていない。あの会計士が言っていた、外国人の男。子爵との取引の向こう側に、何かがある」
「調べは続けております」
「わかっているわ」
シリルが新しい書類を取り出した。地図が一枚、描かれている。王都から遠く離れた、海沿いの街が印されていた。
「ガルベス子爵の取引相手が、最後に確認されたのはこの港町です。フォル・ネビュラ——霧の港、と呼ばれている場所です」
「霧の港」
「ええ。霧が深く、人の出入りが多い。何かを隠すには、都合のいい場所です」
私は地図をしばらく眺めてから、静かに言った。
「次のおそうじ場所が決まりましたわね」
リタがハサミをチャキッと鳴らした。
窓の外では、王都の空が澄み渡っていた。国内の大掃除は終わった。だが本当の汚れは、もっと遠いところに潜んでいる。
私は立ち上がり、日傘を手に取った。
さあ、次の場所へ参りましょう。




