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75/78

75:カノジョをください

 騎士団が麓からの援軍より早く着いたのは、師匠のせいだった。


 実は僕らが村に着く少し前に、祠に侵入者があって魔法陣が書き換えられたのが、感知されてたって言う。

 師匠、それをお城へすぐ知らせて、騎士団の派遣が決まったんだとか。


 ただ何しろお城からで遠いし、気づかれたら困るって理由で地元に知らせるわけにもいかず、日に夜を継いでやっと今日着いた、ってことらしい。


 ――僕には何も言ってなかったのに。


 そうしたら、こんなに僕はひどい目に遭わずに済んだはずだ。

 そう師匠に言ったら、


「お前に知らせたら、どこで誰に喋るかわからん」


 って返された。


 ひどい。

 いくら僕だって、むやみやたらと喋ったりしない。

 お城が買えるくらいお金積まれなきゃ、言うわけがない。


 ともかくそういうわけで、先手を打つ格好で騎士団が派遣されてた。

 それがギリギリ間に合ったって形だ。


「第一陣と第二陣を食い止めてくださるとは、さすがイサ殿」

「あーあたし今回何もしてない。止めたのはここの女性陣よー」


 けらけらとイサさんが笑った。

 でも実際、そうだと思う。


 どこの誰が、あんなクサい戦いをすると思うだろうか。

 あれはそういうものに慣れてる、こういうところの人ならではだ。都会派の僕には絶対にムリだ。


 実は第三陣もあったんだけど、それは未然に阻止された。

 ノびてる第二陣を縛り上げた後、国境の祠近くへ騎士団が速攻で移動して、ヘロヘロの第三陣を迎え撃ってくれたからだ。

 ついでに向こうの陣も、上から大岩をいくつも落として壊したから、当分は安泰だろう。


 村の男衆は、女性陣からもっのすごく怒られた。

 加えて騎士団からも、もう一滴も絞れないんじゃないかってくらい、こっぴどく絞られてた。


 で、全く頭が上がらなくなってる。


 まぁ仕方ない。おばさん族にたてついて、外から敵を引き入れようとしたりするからだ。

 僕の父さんみたいに賢明じゃなきゃ、こういう末路が待ってて当たり前だ。

 逆らうのが悪い。


 とりあえず厨房の地下室に放り込まれてた男たちと、ノびた第二陣第三陣は、捕虜としてひとまとめにして、騎士団たちが連れていくことになった。


「胡桃、これで全部かね?」

「もうないと思うんだけど」


 まだそこはかとなく臭う中、イサさんたちが胡桃拾いに精を出してる。


「いやぁ、今年は剥く手間がだいぶ省けたよ」

「ほんとほんと」


 そんなことを言いながらおばさんたちが、籠に入れた胡桃を、洗い場へ持っていった。

 あれを綺麗に洗って乾燥させて、麓の市場で売りに出すんだそうだ。


 ――食べた人、可哀想に。


 何にまみれて誰に踏まれたか、知ったらどんな顔をするだろう?

 あ、でも買ったのがおばさんだったら、「そんなの平気だよ」って、食べてしまう気はする。


「そいえば、あの綺麗なイタチは?」

「あぁ、あいつ元気だったからさ、大人しくなったころ見計らって、イタチ小屋に戻しといた」

「あら良かった。今回のいちばんの功労者だもんね」

「ホントだよ、勲章でもやらなきゃだ」


 またおばさんたちが、からからと笑う。

 でもイタチの叙勲って……首に勲章下げようとして、大惨事になりそうで怖い。


 勲章と言えば、不正に持ち出されたのをもらった麦は、おばさんたちへの褒美扱いになった。

「これで堂々と食べられるよ」とは、おかみさんの言葉だ。


「ねぇねぇ、あの香りのいい葉っぱちょうだい。お城に持って帰って、ウッラにパイ焼いてもらうの」

「なら、乾燥させたやつ、いっぱい持ってお行き。それなら日持ちするよ」


 イサさん、お土産に葉っぱをもらうことになってご機嫌だ。

 なんて安上がりな人なんだ。

 あの綺麗なイタチの毛皮にすれば、ものすごい額になるのに。


 あと、帰るに当たって、僕の欲しいものがもうひとつ。


「ヨルダさん」


 おかみさんに話しかける。


「なんだい、魔導師さん」

「お嬢さんをいただけませんか?」


 周囲が静まり返った。

 みんなが驚いた顔で僕を見てる。

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