75:カノジョをください
騎士団が麓からの援軍より早く着いたのは、師匠のせいだった。
実は僕らが村に着く少し前に、祠に侵入者があって魔法陣が書き換えられたのが、感知されてたって言う。
師匠、それをお城へすぐ知らせて、騎士団の派遣が決まったんだとか。
ただ何しろお城からで遠いし、気づかれたら困るって理由で地元に知らせるわけにもいかず、日に夜を継いでやっと今日着いた、ってことらしい。
――僕には何も言ってなかったのに。
そうしたら、こんなに僕はひどい目に遭わずに済んだはずだ。
そう師匠に言ったら、
「お前に知らせたら、どこで誰に喋るかわからん」
って返された。
ひどい。
いくら僕だって、むやみやたらと喋ったりしない。
お城が買えるくらいお金積まれなきゃ、言うわけがない。
ともかくそういうわけで、先手を打つ格好で騎士団が派遣されてた。
それがギリギリ間に合ったって形だ。
「第一陣と第二陣を食い止めてくださるとは、さすがイサ殿」
「あーあたし今回何もしてない。止めたのはここの女性陣よー」
けらけらとイサさんが笑った。
でも実際、そうだと思う。
どこの誰が、あんなクサい戦いをすると思うだろうか。
あれはそういうものに慣れてる、こういうところの人ならではだ。都会派の僕には絶対にムリだ。
実は第三陣もあったんだけど、それは未然に阻止された。
ノびてる第二陣を縛り上げた後、国境の祠近くへ騎士団が速攻で移動して、ヘロヘロの第三陣を迎え撃ってくれたからだ。
ついでに向こうの陣も、上から大岩をいくつも落として壊したから、当分は安泰だろう。
村の男衆は、女性陣からもっのすごく怒られた。
加えて騎士団からも、もう一滴も絞れないんじゃないかってくらい、こっぴどく絞られてた。
で、全く頭が上がらなくなってる。
まぁ仕方ない。おばさん族にたてついて、外から敵を引き入れようとしたりするからだ。
僕の父さんみたいに賢明じゃなきゃ、こういう末路が待ってて当たり前だ。
逆らうのが悪い。
とりあえず厨房の地下室に放り込まれてた男たちと、ノびた第二陣第三陣は、捕虜としてひとまとめにして、騎士団たちが連れていくことになった。
「胡桃、これで全部かね?」
「もうないと思うんだけど」
まだそこはかとなく臭う中、イサさんたちが胡桃拾いに精を出してる。
「いやぁ、今年は剥く手間がだいぶ省けたよ」
「ほんとほんと」
そんなことを言いながらおばさんたちが、籠に入れた胡桃を、洗い場へ持っていった。
あれを綺麗に洗って乾燥させて、麓の市場で売りに出すんだそうだ。
――食べた人、可哀想に。
何にまみれて誰に踏まれたか、知ったらどんな顔をするだろう?
あ、でも買ったのがおばさんだったら、「そんなの平気だよ」って、食べてしまう気はする。
「そいえば、あの綺麗なイタチは?」
「あぁ、あいつ元気だったからさ、大人しくなったころ見計らって、イタチ小屋に戻しといた」
「あら良かった。今回のいちばんの功労者だもんね」
「ホントだよ、勲章でもやらなきゃだ」
またおばさんたちが、からからと笑う。
でもイタチの叙勲って……首に勲章下げようとして、大惨事になりそうで怖い。
勲章と言えば、不正に持ち出されたのをもらった麦は、おばさんたちへの褒美扱いになった。
「これで堂々と食べられるよ」とは、おかみさんの言葉だ。
「ねぇねぇ、あの香りのいい葉っぱちょうだい。お城に持って帰って、ウッラにパイ焼いてもらうの」
「なら、乾燥させたやつ、いっぱい持ってお行き。それなら日持ちするよ」
イサさん、お土産に葉っぱをもらうことになってご機嫌だ。
なんて安上がりな人なんだ。
あの綺麗なイタチの毛皮にすれば、ものすごい額になるのに。
あと、帰るに当たって、僕の欲しいものがもうひとつ。
「ヨルダさん」
おかみさんに話しかける。
「なんだい、魔導師さん」
「お嬢さんをいただけませんか?」
周囲が静まり返った。
みんなが驚いた顔で僕を見てる。




