76:願いと誤解と
「な、なんだい藪から棒に。そんなにうちの娘が気に入ったのかい? そりゃ確かにこの娘は料理も上手だけど、そんないきなり嫁にって言われても――」
「嫁?!」
なんでそっちへ話が飛ぶんだ。
「え、いただきたいって、嫁にだろ?」
「違います!」
全力で否定する。僕には姫様という心に決めた人が……。
おかみさんのほうは、一気に興味を失くしたみたいだった。
「なんだ、だったらやれないよ。下働きに出す気はないんだ」
「それも違います!」
なかなか話が通じない。
けど何とか通じさせなきゃいけない。
「お嬢さん、かなり高い魔力があるんです。だから大きい街で、魔法の修行をさせてください」
「魔法って……そんなこと言われても困るよ。この子はしっかり躾けて、嫁に行ってもらわないと」
「魔導師は人手不足なんです! お嬢さんレベルだと、千人に一人も生まれないんです!」
「え……」
おばさんたち、本気で知らなかったらしい。
「初等科のとき、言われませんでしたか?」
「いやぁ、そりゃ魔力はあるとは言われたけど……別にそれ以上言われなかったし」
まるで、伝え聞いた一世代前の世界だ。
まだこういう世界があったんだ。
「だいいち、イヴェラはもういい歳だ。今からガッコ行ったってしょうがないし、嫁に行くのがいちばんだよ。行き遅れちまう」
まぁ確かに、おばさんみたいになってからじゃ、嫁に行くのは難しいだろうけど……でも問題はそこじゃないわけで。
「ヨルダ殿」
ガス攻撃で一日咳き込んで、やっと立ち直った生贄騎士が、おかみさんの手を取りながら前で跪いた。
――膝が地面から、微妙に浮いてるけど。
まだ大量のクサい物が落ちてる地面には、膝をつきたくないんだろう。
「お嬢さんは、類まれな才能をお持ちです。それは国が、血眼になって探すほどのものです」
「そ、そうなのかい……?」
生贄騎士に言われて、おかみさんの心が揺らぐ。
「そういうことなら、私からもお願いしよう」
後ろから声がして振り向くと、団長の渋騎士がいつの間にか立ってた。
「魔導師は、本当に貴重でな。お嬢さんがその力をお持ちなら、学ばせない道理はない。むしろ学ばせないと、国から罰せられますぞ」
「えぇっ!」
おばさんたちが青くなる。
「そ、そんな、あたしゃそんなつもりじゃ……」
うろたえるおかみさんに、渋騎士が言った。
「知らなかったものは仕方ない話。だがことここに至っては、お嬢さんを学院に入れるのには、賛成いただかないと」
「わかりました」
おかみさんが折れる。
「そういう話なら、嫁にやる代わりに学院にやります。そこの魔導師が、面倒見てくれそうですし」
「へっ?!」
だからなんで話が、そっちへ飛ぶんだ。
でもおかみさんは、当たり前って顔つきだった。
「だってそうだろう、あんたが言いだしっぺで、くださいって言ったんだし。若い娘を連れてくんだから、面倒くらい見てくれなきゃ困るよ。じゃなきゃやれるもんか」
「えぇ……」
渋騎士が僕の肩に手を置く。
「スタニフ殿、諦めろ」
死の宣告が聞こえた。




