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73:アレの威力を思い知れ

「何思いついたんだろー」


 イサさんがいちばん後ろから、とことこと歩いてった。


 なんてのんきなんだ。

 僕なんてさっきから、止まりそうなくらい心臓がばくばくしてるのに。


 きっとおばさん族は、心臓が動いてないに違いない。

 だから平気なんだ。


 おばさんたちは次々と馬小屋に駆け込んで――出てきたときに手にしてたのは、黒くて丸い物。


「これでもくらえっ!」


 ひゅんと音がして、黒いモノが勢いよく宙を飛ぶ。

 そしてとてもとても運の悪い兵士の、顔に当たって砕けた。


「ぐへぇぇぇっ! げへっ、げへっ!」


 命中したヤツが、変な声をあげて咳き込む。


「ふふん、馬糞の威力を思い知ったか」

「あれ、ぶつかると舞い散って、クサいの吸い込んで咳き込むんだよねぇ」

「さぁ、どんどん行くよー!」


 次々と投げられる黒い塊。

 そして敵の何人かが、焦った顔で盾を掲げて後ろへ下がる。

 きっと馬糞の威力を知ってるんだろう。


「お前ら、敵前逃亡はゆるさんぞっ!」


 そう言って叱りつけてる偉そうなヤツに、馬糞が命中した。


「うげぇ、げぇぇっ!」


 目に入ったんだろう、必死にこすりながらげへげへ言ってる。

 その間にも馬糞は飛んで――おばさんたち、なんで平気で素手で持てるんだ――合間に本気の矢まで飛ぶから、もうメチャクチャだ。


「クサイってなら、こっちはどうだ!」


 いつの間にか、別のおばさんがバケツを下げてた。


「そぉりゃぁっ!」


 気合いの入った掛け声とともに、バケツが飛んでいく。

 高く上がったバケツは放物線を描いて、避けようとして足をもつれさせた兵士に当たって――。


「うげぇ、くっせぇ!」


 ダメージは、身体より鼻に行ったらしい。


「あれ、中味なに?」

「鳥とかヤギとか、いろんなもんの糞さ。うちのはクサくてねー」


 どうやら肥料にするために集めてあったのを、持ってきたみたいだ。

 なんてクサそうなんだ。


「こっちも喰らえ!」


 別のおばさんが、バケツの中から何かを投げた。

 それが飛んで、兵士に当たる。


「きたねぇっ!」


 当たったのは、腐って崩れかけたイモ。

 何と言うかぐちゃぐちゃでベタベタでおまけにクサくて、僕なら絶対に当たりたくない。


 しかもベタベタだから、足元に転がるとそれはそれで滑って困る。


「こっちも喰らえっ!」


 次に投げられたのは――何だろう? とりあえず、丸い黒っぽい何か。

 ただ腐れ野菜じゃなさそうだ。


「誰だ、胡桃持ってきたの」

「いいじゃないか、渋皮取る前だと、ちょうどクサいし」


 どうやらおばさんたち、クサさを基準に選んでるらしい。

 胡桃も食べるのは種の中身で、外の渋皮というかクサイ実の部分は腐らせて捨てるだけだから、持ってきたんだろうけど。


「何やってんだい、後で拾うの大変だろ」

「いいじゃない、踏んだら滑るし、ついでに剥けるよ!」

「なるほど!」


 胡桃、どうやらこの村はあり余ってるらしい。

 次から次へと誰かが運んで来て、尽きそうにない。


 気の毒なのは敵だった。

 ただでさえふらふらしてるのに、次々クサい物は飛んでくるわ、クサい粉は吸わされるわ、顔も手もクサい液でベタベタになるわ、足元はやたら滑るわ、胡桃踏んで転ぶわ、うかうかしてると矢も飛んでくるわ、ヘタに群れから離れると騎士に狩られるわ……。

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