72:敵、ふたたび
「でも、もう他にいませんよ?」
「そうなんだけど……」
その時、窓の外をたまたま見てた誰かが声を上げた。
「ヨルダ、また誰か来たよ!」
「え?!」
みんなが窓に駆け寄って、押し合いへしあいしながら覗く。
「剣持ってる!」
「やはり第二陣か」
「えぇっ!」
浮き足立つ村のおばさんたちと、冷静な生贄騎士。
それになぜか冷静なイサさん。
「来たけど、けっこうフラフラ?」
「そうですね」
ふふん、思い知ったか。
僕の陣は健在だ。
あの陣は、踏み込んだ相手を完全な無力化はできないけど、走れない程度には動けなくする。
姑息さと目立たなさで知る人が少ないけど、嫌がらせにはうってつけだ。
相手の様子を確認してた生贄騎士が、イサさんに言った。
「私が行きます。かなり弱ってるので、何とかなるかと」
彼はそう言うと、躊躇いもなく剣を抜いて宴会場を出る。
ちきしょう、見せ場取るな。だから肉弾派はキライなんだ。
外では叫び声が上がってる。
剣持ったヤツが居ることに、敵が気づいたらしい。
「彼、大丈夫なのかい?」
「自分で大丈夫って言ってるんだから、勝ち目はあると思うわよ」
「あたし、弓取ってくる!」
割と若い誰かが、厨房から駈け出した。
「私も!」
もう一人、やっぱり厨房を出てった。
「エマとカルナ、弓は上手いからねぇ」
「射程長いと、武器は有利なのよね」
イサさんの言葉に、誰かが返した。
「長いとって、じゃぁ鋤とかは?」
「すごく強いと思う」
おばさんたちが顔を見合わせた。
窓の外、村の入り口のほうでは、生贄騎士が大立ち回りだ。
ただ自分で言ってただけあって、ふらふらしてる連中相手に、そうそう負けそうにはなかった。
てかあいつ、地味に強い。
不公平だ。
神様はどうして、エコひいきするんだろう。
僕なんて毎日ちゃんと、お祈りしてるのに。
さらにそこへ弓が加わって、射られた兵士が倒れる。
「あんな奴ら相手に、村盗られたくない。あたしも鋤、持ってくる!」
「私も行く!」
また二人ほど駆け出した。
「よし、こうなったらみんなで行こう! 相手は酔っ払いみたいなもんだ、大したことないよ」
「ああ、ダンナとのこと思えば、あの程度」
なんて人たちなんだ。
一応武装した人を相手するのに、ダンナさんのケンカと同じレベルに考えるなんて。
そんな中、イサさんがおかみさんに声をかけた。
「ねぇヨルダ、赤ちゃんのオムツとかない? 使い終わったやつ」
「オムツ? 何するんだい」
「投げるの。べったり張り付いて、なかなかイヤよ」
イサさんの言葉に、おかみさんがあっという顔になる。
「なるほどね。でもそれなら、もっといいものがある」
そう言うとおかみさん、満面の笑みで厨房を見回した。
「みんな、馬小屋行くよ! アレを投げてやる!」
「アレか、そりゃいいね!」
おばさんたちが沸き立って、おかみさんを先頭に、先を争うように駆け出してく。




