68:称えられるのは
「パイ食べる?」
「もう食べちゃうんですか? お昼まだですよ」
「それもそうか」
そう言いながらもイサさん、包みをちゃっかり開けてる。
そしてパイを一つ取り出すと半分に割って――いちばん具が詰まってる真ん中をちょこっとちぎって、食べ始めた。
「やっぱりおいしいわー。あ、あげる」
少しづつ減ったパイが、左右に差し出される。
「相変わらず食べませんね」
「うるさいな。だったらラウロに両方渡す」
「すみませんすみませんごめんなさい」
慌てて謝った。
食料を手に入れるのは何より優先だ。
何回下げてもタダの頭で手に入るなら、下げるに越したことはない。
なぜか哀しくなるけど。
ともかく僕は、半分弱のパイを無事手に入れた。
「そいえば援軍って、三日で来るの?」
「昨日スタニフ殿が知らせてくれましたから、狼煙か太鼓でつないで麓まで半日弱。今朝には知らせがついてますから、そこから山を登り始めて、天候がどんなに良くても二日。やっぱり三日は見た方がいいです」
「そっかぁ」
天候が悪かったら敵も動けないけど、援軍も遅くなる。
片方だけ早くできないのが痛いところだ。
「知らせと共に城をはじめ、どこも動いてるとは思いますが……」
「でもお城、遠いもんねぇ」
「ええ」
自分たちが来た道を思えば、どのくらいかかるか見当はつく。
そう考えると、麓の守備隊以外、頼りになりそうなものはなかった。
「まぁ、第一波しのげば、あとは何とかなりそうでよかったけど」
「スタニフ殿のおかげですな」
二人の視線がこっちを向いた。
ふふん、やっと僕のすごさを理解したか。
魔導師っていうのは、こういうことができるんだ。僕を崇め奉れ。
「で、村の子供たちはいつ来るのかな」
「そんなにかからないのでは? すぐ出発させると、ヨルダ殿も言っていましたし」
「そうねー」
僕への尊敬と羨望のまなざしは、結局来なかった。
なぜなんだ。
「ラウロ、もいっこ食べる?」
「よろしいのですか?」
なんで二人で、仲良くピクニック気分なんだ。僕はあんなに働いて、村を守ったっていうのに。
だから言ってみる。
「これで、何かあったらどうするんです?」
「どうもしないわよ」
平然とイサさんが言う。
「どう見たってサイアクは、敵がいきなり来て村を襲うこと。でもそれ、阻止できるんでしょう? まさか、できないの?」
「できますよ」
ここは断言できる。
あんな簡単な陣を間違えるようじゃ、魔法学院を最初からやり直した方がいい。
「じゃぁ、問題ないじゃない」
「でも……」
なんか納得がいかない。
どうして僕をたたえる方向へ、話が行かないんだ。
その時、話し声が聞こえた。
カン高い子供の声が混ざってる。村の避難組みらしい。
「あ、イヴェラー」
立ち上がって元来た方を見てたイサさんが、手を振った。
どうやら先導は、あのお嬢さんらしい。
「イサさん、騎士さん、お疲れ様です。あ、魔導師さんも」
なぜか僕が後付けだ。
こんな可愛い子に覚えてもらえないなんて、悲しすぎる。
やっぱり魔導師は騎士にかなわないんだろうか?
だとしたら理不尽だ。
「イヴェラも避難するの?」
「いいえ。でもイサさんたち、私以外は顔がわからないだろうと思って。だからここでみんなとは別れて、私はイサさんたちと帰ります」
どうやらお嬢さん、僕らと村の子たちを仲介するためだけに、来てくれたらしい。
なんて気遣いなんだ。
やっぱり若いお嬢さんは、おばさん族とは違う。
素晴らしい。
来た人たちは、総勢で二十人ほど。
半分以上は子どもだけど、若い娘さんや、身重の人もいた。
イヴェラさんが僕らの馬に寄って、首筋を軽く叩く。
「ホント、いい馬ですよね」
「でも大人しいの。あたしとそこのボクが慣れてないから、大人しいのを選んでくれたんだって」
「なら、引いてくの楽ですね」
そう言いながらお嬢さんが、少年と別の若いお嬢さんを紹介する。
「ムイジとガラエです。二人とも、馬の扱いは村でも一、二を争うんですよ」
少年はすばしっこそうで、いかにも乗馬が上手そうだ。
女性の方は濃い茶の髪に黒の瞳。
ハッキリした感じで、確かに馬をうまく扱いそうに見える。
生贄騎士が頷いて、二人に手綱を渡した。
「よろしくお願いします。大事な相棒たちなので」
『はいっ!』
二人の声が揃った。
「そしたら、みんな寄り道しないで、下の村まで行ってね」
「わかってるー」
子どもたちの元気な声と共に、一行は坂を下りだした。
「さ、あたしたちもいこっか」
これからちょっと買い物に、そんな調子でイサさんが言う。
この人、これから何が起こるのか、わかってないに違いない。
「村の表からだとバレちゃうので、裏へ案内しますね」
「助かるわー」
僕らは歩き出した。




