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68/69

68:称えられるのは

「パイ食べる?」

「もう食べちゃうんですか? お昼まだですよ」

「それもそうか」


 そう言いながらもイサさん、包みをちゃっかり開けてる。

 そしてパイを一つ取り出すと半分に割って――いちばん具が詰まってる真ん中をちょこっとちぎって、食べ始めた。


「やっぱりおいしいわー。あ、あげる」


 少しづつ減ったパイが、左右に差し出される。


「相変わらず食べませんね」

「うるさいな。だったらラウロに両方渡す」

「すみませんすみませんごめんなさい」


 慌てて謝った。

 食料を手に入れるのは何より優先だ。


 何回下げてもタダの頭で手に入るなら、下げるに越したことはない。

 なぜか哀しくなるけど。

 ともかく僕は、半分弱のパイを無事手に入れた。


「そいえば援軍って、三日で来るの?」

「昨日スタニフ殿が知らせてくれましたから、狼煙か太鼓でつないで麓まで半日弱。今朝には知らせがついてますから、そこから山を登り始めて、天候がどんなに良くても二日。やっぱり三日は見た方がいいです」

「そっかぁ」


 天候が悪かったら敵も動けないけど、援軍も遅くなる。

 片方だけ早くできないのが痛いところだ。


「知らせと共に城をはじめ、どこも動いてるとは思いますが……」

「でもお城、遠いもんねぇ」

「ええ」


 自分たちが来た道を思えば、どのくらいかかるか見当はつく。

 そう考えると、麓の守備隊以外、頼りになりそうなものはなかった。


「まぁ、第一波しのげば、あとは何とかなりそうでよかったけど」

「スタニフ殿のおかげですな」


 二人の視線がこっちを向いた。

 ふふん、やっと僕のすごさを理解したか。

 魔導師っていうのは、こういうことができるんだ。僕を崇め奉れ。


「で、村の子供たちはいつ来るのかな」

「そんなにかからないのでは? すぐ出発させると、ヨルダ殿も言っていましたし」

「そうねー」


 僕への尊敬と羨望のまなざしは、結局来なかった。

 なぜなんだ。


「ラウロ、もいっこ食べる?」

「よろしいのですか?」


 なんで二人で、仲良くピクニック気分なんだ。僕はあんなに働いて、村を守ったっていうのに。

 だから言ってみる。


「これで、何かあったらどうするんです?」

「どうもしないわよ」


 平然とイサさんが言う。


「どう見たってサイアクは、敵がいきなり来て村を襲うこと。でもそれ、阻止できるんでしょう? まさか、できないの?」

「できますよ」


 ここは断言できる。

 あんな簡単な陣を間違えるようじゃ、魔法学院を最初からやり直した方がいい。


「じゃぁ、問題ないじゃない」

「でも……」


 なんか納得がいかない。

 どうして僕をたたえる方向へ、話が行かないんだ。


 その時、話し声が聞こえた。

 カン高い子供の声が混ざってる。村の避難組みらしい。


「あ、イヴェラー」


 立ち上がって元来た方を見てたイサさんが、手を振った。

 どうやら先導は、あのお嬢さんらしい。


「イサさん、騎士さん、お疲れ様です。あ、魔導師さんも」


 なぜか僕が後付けだ。

 こんな可愛い子に覚えてもらえないなんて、悲しすぎる。


 やっぱり魔導師は騎士にかなわないんだろうか?

 だとしたら理不尽だ。


「イヴェラも避難するの?」

「いいえ。でもイサさんたち、私以外は顔がわからないだろうと思って。だからここでみんなとは別れて、私はイサさんたちと帰ります」


 どうやらお嬢さん、僕らと村の子たちを仲介するためだけに、来てくれたらしい。

 なんて気遣いなんだ。


 やっぱり若いお嬢さんは、おばさん族とは違う。

 素晴らしい。


 来た人たちは、総勢で二十人ほど。

 半分以上は子どもだけど、若い娘さんや、身重の人もいた。

 イヴェラさんが僕らの馬に寄って、首筋を軽く叩く。


「ホント、いい馬ですよね」

「でも大人しいの。あたしとそこのボクが慣れてないから、大人しいのを選んでくれたんだって」

「なら、引いてくの楽ですね」


 そう言いながらお嬢さんが、少年と別の若いお嬢さんを紹介する。


「ムイジとガラエです。二人とも、馬の扱いは村でも一、二を争うんですよ」


 少年はすばしっこそうで、いかにも乗馬が上手そうだ。

 女性の方は濃い茶の髪に黒の瞳。

 ハッキリした感じで、確かに馬をうまく扱いそうに見える。

 生贄騎士が頷いて、二人に手綱を渡した。


「よろしくお願いします。大事な相棒たちなので」

『はいっ!』


 二人の声が揃った。


「そしたら、みんな寄り道しないで、下の村まで行ってね」

「わかってるー」


 子どもたちの元気な声と共に、一行は坂を下りだした。


「さ、あたしたちもいこっか」


 これからちょっと買い物に、そんな調子でイサさんが言う。

 この人、これから何が起こるのか、わかってないに違いない。


「村の表からだとバレちゃうので、裏へ案内しますね」

「助かるわー」


 僕らは歩き出した。

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