65:お茶会の合間に
「この場所、地図だとどこになりますか?」
「この辺です」
迷わず彼女が指をさす。
案の定、僕らがいるのは祠を繋いだ線のギリギリ内側だった(だいいち越したら分かる)。
そして斜面の下の空き地は、その線のほんの少し向こう側。
つまり国境を挟んだ格好で、予想通りだ。
大がかりな陣は、他国の領内には築けない。
作った瞬間に魔力の動きでバレる。
だから祠の防衛ラインのギリギリ向こう側に、描いたんだろう。
あとは祠を無効化して誰か魔導士が入って、敵国側に対応する魔法陣をおけば、入り放題って寸法だ。
陣は、ほぼ魔力が満ちてた。
あと2日もしたら使えるはずだ。
「そういうことか……」
やっと僕の中で、全部がつながった。
「スタニフ殿?」
「帰ったら話します。ここじゃ危険なので」
僕の言葉に、他の二人も何かを察したんだろう、それ以上何もいわずに歩きだした。
そのまま無言で村まで帰りついて、離れへ寄るふりをして厨房に潜り込む。
「あらお帰り、早かったじゃない」
――厨房の中は、おばさんがたくさんだった。
真ん中の作業用の大テーブルの上に、たくさんお茶と軽食が並んでるとこみると、〝お茶会〟の最中だったらしい。
「何かあったの?」
「はい」
答えて、僕は話しだした。
お茶会をしてたなら、ここでみんなに知らせるのがいちばん早い。
イサさんのことだから、もうだいたいの事情は話してあるはずだ。
だからその続きを話す。
山の祠を巡って、妨害工作は終えたこと。
前にはなかった陣を国境のすぐ向こうに見つけたこと。
それが〝移動門〟と呼ばれる特殊なもので、一気に大人数を移動させられること。
もう2日も経てば使えるようになること……。
「だとすると、侵攻の日は明日か?」
「可能性は高いと思います」
あの魔方陣の様子だと、最初の小隊が国境を越えてこちら側で陣を描けば、すぐに大規模な侵攻が出来るようになる。
そうなれば、侵攻し放題だ。
最初は侵攻するにも、全軍峠を歩いて越えるんだろうと思ってた。
何しろ祠に細工されてたし。
ただこれだと、天候に左右されすぎて、大部隊を送り込むのにはイマイチ適さない。
そしてモタモタしてる間に、せっかく細工した祠の陣が見つかって、元に戻されてしまうかもしれない。
けど移動門があるなら話は別だ。
これなら天候に左右されないし、つなげる先の陣が描かれ次第、一気に飛べる。
たださすがに相手の国内に、堂々と作るのは難しい。
だからこの村を懐柔して、移動先を作ることにしたんじゃないだろうか?
そして陣の準備はほぼ出来てたから、臨時の寄り合いを開く明日に誰か来て、村か近くに移動先を用意するつもりに違いなかった。
「思っていたより、かなり早いな」
生贄騎士が、深刻な表情で考え込む。
「援軍を呼ぼうにも、いちばん近くでも3日はかかるぞ……」
よくわからないけど、マズいらしい。
「とりあえず、ここ、戦場確定?」
イサさんの言葉に、みんなが浮足立った。
「ど、どうすりゃいいんだい」
「村を焼かれちゃ困るよ」
「じゃぁいっそ言うこと聞けば――」
口々に言う中、生贄騎士とイサさんだけが冷静だった。
もっともイサさんの場合、わかってないだけの可能性も高いと思うけど……。
「ねぇラウロ、聞くのもアレなんだけど、敵に協力するのはナシよね?」
「事が済んだ時点で殺されるか、よくて奴隷です」
「そうよねぇ」
夕食の献立を悩む程度の気軽さで、イサさんがため息をつく。
「でもそうなると、素人だけで防衛?」
「今回は案外、できなくもないですよ」
さらりと生贄騎士が言ってのけて、みんなが騒ぐのをやめる。




