表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/71

64:境界線の向こう側

「そんな、麦をまたくれるなんて上手い話、あるわきゃないだろに」

「あたしもそう思うんだけど」


 お嬢さんが肩をすくめた。


「なんかね、頼み聞けばいいだけだし、って。で、あたしびっくりして、何の頼みか訊いてみたのよ」


 お嬢さんが料理持ってってくれて、ホントよかった。

 そうじゃなかったらこの村、そう遠くないうちに大変なことになってたと思う。


「で、なんて言ってたんだい?」

「あと少ししたら人がいっぱい通るけど、そのときにちょっと手伝えばいいだけだから、って言うの」

「それ、侵攻の片棒担ぎじゃ……」


 隣の騎士も頷いた。


「山越えしてくるんでしょうね」

「この時期に? けっこう無謀だと思うけどねぇ」

「そうなんですか?」


 驚いて聞いてみると、山のこの時期は、案外雨が多くて天気が変わりやすいんだっていう。


「急に寒くなったり、霧が濃かったりいろいろあってね。峠越えるのは、案内いないと危ないと思うんだよねぇ」


 そういえば今日も、霧だって理由で山歩きやめたわけで。

 これだけで案内があっても歩けないなら、行軍はけっこう危険だろう。

 日程なんかも、天候次第でかなりズレそうだ。


「その案内を、村から出すって話なのかな?」

「どうだろうねぇ」


 けどさすがにそこまでは、ここで考えてても分からなかった。



 厨房での話があってから、3日。


 僕と生贄騎士とお嬢さんの3人は、連日山を歩いてた。

 少しでも多く祠を周って、陣を書き換えて、罠を仕掛けるためだ。


 イサさんは相変わらずお留守番。と言いつつ昨日今日は、「みんなにお城の話をする」という名目で、お茶会開いてるらしい。


 ――お茶会。なんて恐ろしい響きだろう。


 優雅なのは見た目だけ、情報が錯綜して陰謀が走り出す、あれは史上最悪の作戦室だ。

 その次に危険なのが、厨房だろう。


 この二つは父さんも言ってなかった。

 だからぼくはこの分だけは、父さんより賢くなったかもしれない。


「ここは、これで終わりですね」


 扉を出て閂をかけて、地図を開く。


「えぇと、次に行くなら……あれ?」


 それぞれの祠は、当たり前だけどそれなりの魔力を放ってる。

 だから地図にある方角から、魔力が来てなければおかしい。

 なのに、違う方向から魔力を感じだ。


「すみません、こっちの方、地図にない祠とかあります?」


 僕が指さすと、お嬢さんもそっちへ視線を向けた。


「魔力が来てるの、わかりますよね?」

「はい。でも、あんな方に祠は……。前にはこんなふうに、あっちから魔力来ませんでしたし」


 生贄騎士と顔を見合わせる。


「見に行きますか」

「ですね。イヴェラさん、道わかりますか?」

「わかります」


 短く答えて、彼女が歩き出す。


 ――これ、地元民じゃないとムリだろうなぁ。


 どこが道なのかよく分からない、藪の中を進んでいく。

 よく見るとうっすら道はあるけど、知らなかったらまず見落とすだろう。

 そうやって進んだ先で、彼女が立ち止まった。


(あれ、何でしょうか……)


 小声で訊いて来て、僕に場所を譲ってくれる。

 そっと覗くと、ここから先は下りの斜面になってて、下のほうに小さな空き地があった。


 下草がご丁寧に抜かれてて、地面がむき出しになってる。

 そしてその地面にはよく見ると、魔力を込めた石まで配置した、かなり大がかりな魔方陣。


「――帰りましょう」


 僕は即座に言った。あれはまずい。

 騎士が不思議そうに訊いてくる。


「書き換えないのか?」

「あれは書き換えられません。書き換えたらすぐバレます」


 一目見て分かった。事もあろうに、描かれてるのは「移動門」だ。

 使うのはかなり難しいし、魔力も要るし、そもそも魔導師が何人も要る。


 加えて通った時に、けっこうふらふらになる(たまに死ぬ)。

 だから一般には使われないけど……奇襲の時には使われるって、聞いたことがあった。


 でもこれで、攻めようとしているどこかが何を考えてたかはわかる。

 軍隊の峠越えなんかじゃない。

 直接領地へ飛び込むつもりだったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ