63:ウマい話
口上はまだ続いてた。
「ダメでしょうか?」
「いえ、でも、そんな……それに、国って……」
イサさんが横から口を挟んだ。
「あ、彼ね、それでも一応騎士団だから」
「ええっ?」
おかみさんとお嬢さん、両方の目が丸くなる。
「騎士団って……あんたたちの護衛じゃなかったのかい?」
「うん」
言っちゃいけないことを言って、平然としてるイサさん。
「でもナイショよ。広まったら困っちゃう。絶対言わないでね。男連中には特に」
「分かった、言わないよ」
おばさんが請け負った。
――僕としては微妙だけど。
いくら魔導師がどっちの性別にも入れないとはいえ、思いっきり「男連中に言うな」という現場に居合わせると、なんだか立つ瀬がない。
おかみさんが、確認するような調子で訊いてきた。
「そうするとなんだい、あんたらは実はただの旅の魔導師じゃなくて、国から依頼を受けた御一行、ってことかい?」
「御一行ってほどたいしたもんじゃないけど、依頼はされてるの。ちょっとね、お城でゴタゴタがあって」
言い置いて、イサさんが話し始めた。
神殿の助祭長が異国の誰かにそそのかされて、領主を操ろうとしてたこと。
その助祭長と会計係が結託していたこと。
会計係が管理していた麦が、一部消えていたこと。
ミセス・ペーデルの手紙から、なぜかこの村にふんだんに麦があるとわかったこと。
それで確かめに来たら、国境を守る陣が書き換えられていたこと……。
「ちょ、ちょっと待っとくれ、それ大事じゃないか」
「そなのよ」
まるで、野菜にちょっとダメなのが混ざってた程度の軽さで、イサさんが頷く。
おかみさんが腕組みをして考え込んだ。
「アンタの言った通りなら、ほっぽっといたら戦争になりかねないってことだろ?」
「うん」
重大な話なのに、どうしてイサさんこうも軽いんだろう?
怖いとか困ったとかないんだろうか?
もしかしたらおばさんになるときに、どこかに捨てたのかもしれないけど。
ただおかみさんの方は、もう少しだけまともだった。
「冗談じゃないよ、そんなことになったら、村が焼けるか人死にだ」
「だから止めたいわけ」
きっぱりとイサさんが言う。
やり取りを聞いてたお嬢さんが、まっすぐおかみさんを見て言った。
「母さん、私、今日の料理持ってく」
おかみさんも頷く。
「頼むよイヴェラ。何としても、話の内容を聞かなきゃだからね。男どもの悪だくみ、きっちり晒してとっちめないとだ」
話がまとまったらしい。でも、怖気が走るのはなんでだろう?
なんかこう、見ちゃいけないものを見てる気がするんだけど……。
「さぁて、そうと決まったら料理料理」
「そうだね。まずそれが出来ないことには、始まりゃしない」
「腕にヨリかけないとねー」
楽しそうに言う女性陣に更なる怖気を覚えながら、僕は次のイモを手にした。
「で、どうだった?」
小さな寄り合いが終わった夜、僕らはまた厨房に集まってた。
――ほんとにここ、秘密会議にうってつけだな。
女性陣しか立ち入らないから、男性陣に気づかれないったらありゃしない。
父さんが「井戸端会議には気をつけろ」って言ってたけど、本当にそうだと思う。
話を振られたお嬢さんが、溜息をついた。
「もうね、ほんとヤだ。村のオヤジども、ともかく触ろうとするんだもの」
ガマンしたけどさーとむくれるお嬢さんを、おかみさんがなだめる。
「あいつらバカだからねぇ。まぁありがとね。で、どうだったんだい?」
「みんなどうかしちゃってる。父さんまでおかしいの」
ここでもう一度溜息をついて、彼女は続けた。
「次の大きい寄り合いで例の魔導師の仲間が来るから、話を聞く代わりにまた麦を頼めばいいって。今年は安泰だって」
「はぁ?」
おかみさんが素っ頓狂な声を上げる。




