62:抹殺すべきもの
「それにしても、今年は麦が足りてるから助かるよ」
「剛毅よねー、麦くれるなんて。なんかちょっと心配になっちゃう」
「それはそうなんだけどね、背に腹は代えられないしねぇ」
まぁそうだろう。
秋に採れた麦で、一年生き延びなきゃいけないわけで。
それが足りなかったら、こんな山奥じゃ最悪、木の皮まで食べることになりかねない。
「なにか見返り、要求されてたらヤよねぇ……」
「それはあたしも心配でねぇ」
おかみさんが眉根を寄せた。
「あの魔導師一行が来てからってもの、どうも男どもの寄り合いが増えててね。でも何話してるのか、さっぱり教えてくれないのさ」
「えー、それなんかヤよねぇ」
「そうなんだよ」
――ここの男性陣、ダメじゃないか。
女性陣に内緒で集会だなんて、「何か企んでます」って触れ回ってるようなもんだ。
こういうときはせめて、何かそれっぽい違う話をでっちあげて、流しておくくらいしないと。
ただそれをやっても、たいていバレるけど……。
「女性陣に隠し事はムリと思え」って、父さんよく言ってたけど、あれは絶対に正しい。
ただ今回に限っては、バレてくれてありがたかった。
ヘタをすれば国が盗られるかもしれない話なのに、最後まで秘密裏に進んだら、たまったもんじゃない。
「ホントに何も、見返り要求されてないのかしら?」
「いや、あるんじゃないかねぇ。ホントこのとこ、寄り合い増えてるからね。――そういや」
何かおばさん、思い出したみたいだ。
「大きい寄り合いが、追加されたっけ。男どもが全部集まるやつ」
「やだ、そうなの?」
イサさんが身を乗り出す。
「それじゃ大変じゃない、料理たくさん要るんでしょ?」
「そうなんだよ」
イサさん、大変なの絶対そこじゃない。
だから僕は肝心なことを聞こうとして……先に口を開いたのは、騎士の方だった。
「その寄り合いは、いつなんですか?」
「四日後だよ。いつもは月に一回で、ちょうど前の魔導師さんが来たときにあってね。そういやあのときは、魔導師さんも呼ばれてたっけねぇ……」
今度は僕らが顔を見合す。
村の寄り合いっていうのは基本、部外者は入れない。
なのにただの旅の魔導師が呼ばれるなんて、そこで陰謀企みました、って言ってるも同然だ。
加えてただでさえ寄り合いが増えて何かをナイショで話してる上、定例じゃない大きいのをやるだなんて、その日に大がかりな作戦立てます、って触れまわってるとしか思えない。
「なんか気持ち悪いわねぇ……できたら今日の時点で、寄り合いの中身がわかるといいんだけど。待ってたら大騒ぎになりそ」
「ホントだよ。男どもなんて子供と一緒で、おとなしい時はロクなことしやしない」
言っておかみさんが、ちょっと考え込んだ。
「――決めた。イヴェラ、今日はお前が料理を持ってお行き」
「えー、やめてよ!」
お嬢さんが声を上げる。
「あの人たち、すぐお尻触るんだもの!」
「そりゃ分ってるけどさ、あたしが行ったって追い出されちまうだろ」
「それはそうだけど……」
心底嫌そうだ。
「村のためだと思って頼むよ。あんたなら若いから、居てもあいつら喜ぶばっかで、気にしないで喋るはずだし」
「でも……」
渋るお嬢さんに向かって、動いたのは生贄な騎士だった。
優雅に――なんでコイツこんな風にできるんだ――立ち上がって一礼して、跪く。
そしてお嬢さんの手を取りながら言った。
「イヴェラ殿がお嫌な気持はよくわかります。ですがここはこの国のため、どうかお力をお貸しくださいませんか?」
「え、そんな……」
ちきしょう、悔しい。
こんなふうにされて嫌がる女の人がいないことくらい、僕にだって分かる。
現にこのお嬢さん、顔真っ赤にして、視線もコイツに釘付けだ。
容姿端麗抹殺すべし。
ひそかにそう誓う。




