57:魔導士たるもの
「あ、そこ離れてください」
言って生贄騎士を下がらせる。
見回りが終わって、例の離れに戻って夕食も食べ終わって、僕は〝魔導師に使える通信〟の準備をしてた。
ふつうなら床に魔法陣を描くのだけど、今回は師匠の技を利用して、石を六つほど配置しただけだ。
――なんで師匠、今まで教えてくれなかったんだろう。
陣を描いたら、毎回すごい時間がかかる。
予め描いたタペストリーかなんかを用意しておいて、使うときに広げる方法もあるけど、持ち歩くにはかさばるのが難点だ。
その点この石に組み込んでおいて配置するやりかただと、かさばらなくてすごくいい。
本当にこの辺境に来てよかった。
じゃなきゃ師匠、ぜったいに教えてくれなかったに違いない。
だから僕はひそかに、師匠が死ぬまでくっついてようと心に誓う。
どう考えても師匠より、絶対僕のほうが長生きする。
だからずっとくっついてれば、師匠が研究したものは僕のものになるはずだ。
そしてそのあと悠々と、どこかに仕官すればいい。
この魅力はとてもとても捨てがたかった。
「じゃ、始めますね」
配置した石の中央に、特殊な加工をした水晶玉を置いて、それに向かって話しだす。
「師匠、これを聞きましたら、お城へ内容を知らせてください」
前置いて、僕は続けた。
「実は、調べた国境の祠の陣が、書き換えられてまして――」
今日は結局三つ回って、そのどれもが書き換えられてるのを確認した。
で、それで分かった書き換えのやり方や、推測だけど書き変えた時期、対処法等々を水晶玉に言う。
「以上です。ご指示ありましたら、お願いします」
言って僕は、話すのを止めた。
最後に短い終了の呪文を唱えて、終わりにする。
これで師匠の家に置いてきた、共振させてある水晶玉に、今の話が記録されてるはずだ。
「そのうち、返信が来ると思います」
「こんなものがあるのか」
感心したのは、生贄騎士だ。
まぁ彼じゃ遠くへ急いで伝える方法は、伝書鳥か早馬しか知らないだろうから、驚くのも無理はない。
魔導師のすごさを思い知れ。
だからついでに畳みかけて、すごさをさらに思い知ってもらうことにした。
「魔力がないと、この方法は使えませんから。だから戦地から送ろうとしても、前線と後方両方に魔導師がいないとダメですよ」
生贄騎士が考えてそうなことを、先回りして言う。
「そうなのか……」
どうやら図星だったらしい。彼の肩が落ちた。
――そのくらい、お見通しだ。
古今東西どれだけの魔導師が、同じ質問をされたか。
だから模範解答だってちゃんと用意されてるのを、知らないんだろう。
「ともかく、これで話は行ったのよね?」
「師匠が気づけば、ですけどね」
「そこが心配なのよねぇ」
これに関しては、イサさんの言うとおりだ。
どれだけ早く伝わっても、相手が見てくれないことにはしょうがない。
ただこれは手紙でも同じことだから、もうどうしようもないところだ。
問題は師匠そのものなんだから。
師匠の性格が取り換えられればいいのに。
「まぁさすがに今回はコトがコトなので、見てくれるとは思うんですけど」
この通信手段用意してくれたの、師匠だし。自分が行きたくなかっただけだとは思うけど。
「待つしかないわねー」
それがイサさんの結論だった。
おばさんという種族にしては、すごく妥当でありふれた結論だ。
こんな答えが出せるなんて、何か悪いものでも食べたんだろうか?
悩む僕を尻目に、イサさんはぽふっと音を立てて、ベッドに転がった。
「疲れた。寝る」
「はいはい」
イサさんがこう言いだしたら、絶対に止めちゃいけない。
そんなことをしたらたちまち不機嫌になって、降参するまでいろいろ言われるのは確認済みだ。
「朝ごはん来たら、起こしますよ」
「嘘ばっかり、いつもあたしに起こされてるくせに……」
最後は半分欠伸になって、そのままイサさんは寝込んでしまった。
「我らも寝るか」
「そですね」
これ以上起きてたって仕方ないし、僕も散々歩き回って疲れてる。
念のためにドアと窓に、侵入が分かるように細工をして、それから僕らも眠りに就いた。




